Fitzcarraldo

大統領の陰謀のFitzcarraldoのレビュー・感想・評価

大統領の陰謀(1976年製作の映画)
4.3
"Klute"(71) "The Parallax View"(74)に続く陰謀三部作となるAlan J. Pakula監督作。

The New York Timesに次いでピューリッツァー賞を69回受賞しているアメリカ主要新聞のThe Washington Postの記者Carl BernsteinとBob Woodwardの共著『大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日』の映画化。

William Goldmanがアカデミー賞脚色賞を受賞したが、監督やレッドフォードにより書き直しが多く、どこからどこまでが誰の手によるものなのか不確かだという…

Robert Redford演じる新人の記者ボブ・ウッドワードに担当が回ったのは、事件が週末に起き、ベテラン記者が休んでいたために、偶然にお鉢が回ってきただけらしい…

ウッドワードは海軍あがりでワシントンポスト紙に入社したばかりで当時29歳。
一方のDustin Hoffman演じるカール・バーンスタインは地元ワシントン出身、新聞社の使い走りから叩き上げの28歳。

二人ともその時に離婚後ということで、家族サービスに時間がとられないお陰で、事件の追及に没頭できたという偶然も重なったという…映画ではどこにも描かれていないが。

撮影は"The Godfather"シリーズでお馴染みの陰影の魔術師Gordon Willis。謎の情報源Deep Throatと立体駐車場で密会するシーンは暗闇を巧みに扱い見る者をゾクゾクさせてくれる。

さらに夜の街をウッドワードとバーンスタインが車を走らせる運転シーン…途中で真っ暗になって何も見えなくなるが、会話を続ける2人。字幕だけが浮かぶ。通常ならNG集で使われそうなものだが…この真っ暗で何も見えないというのがなんかいいんだよなぁ…裏に潜む何か見えざる巨大な力に2人が立ち向かってるようにも感じるし…ものすごく自然だと思う。

日常に生きてれば暗い夜道を歩いたり、そういうもんでしょ。さすがに繁華街はどこもかしこも明るいが…場所によっては真っ暗で見えないなんてことがあってもいいと思う。とにかくどこでも照明を仕込んで役者の顔を照らす必要はないよね。それは不自然なんだよ。

特に車のシーンで多い気がする。街灯もまばらな暗い道を走ってるのに、車内だけ照らされて人物が幽霊のように画面から浮いて見えるという。見えなくても、前後の繋がりで分かると思うけど…そこは補完するでしょ⁈見てる側が…

また冒頭のウォーターゲート・ビルや、連邦議会議事堂など、実際に事件が起こった現場でロケ撮影されているのも説得力を増す要因となる。

ただしワシントン・ポスト紙編集局は、カリフォルニアのワーナー撮影所内に作られたセットであるのだが…アカデミー賞美術賞を獲得したGeorge Gaines曰く…

ビリー・ワイルダー監督の『アパートの鍵かします』(60)でArt Directionを担当したAlexandre Traunerと美術のEdward G. Boyleの方式を真似したらしい。

さらにアレクサンドル曰くキング・ヴィダー監督の『群衆』(1928)で大量の机をドーッンと並べてるのを、どうやって再現しようかと考えたと…

その方法が画面の奥のモノほど小さくしているらしい…奥のデスクは切って小さく見せていると…奥に立つ俳優は背の低い俳優を立たせていると…奥行きがあるのではなく、単純に奥にあるものが小さいのだと…
遠近感を誇張して奥行きのある画面を構築したのだと…

本当にそんな手の込んだことをしているのか?見ているだけでは全く分からないが、確かに狙い通り奥行きの広い画面としては成功しているので、実際にそうしてるのだろう…

こういう創意工夫は画面表現がチープで貧相な邦画界にも是非とも取り入れてほしいところ。

"Blow Out"(81)
"Reservoir Dogs"(92)
"Pulp Fiction"(94)
『女囚さそり 第41雑居房』(72)
これらの作品でも使われていたのだが…
同一の画面内を左右半分に分け、一方がクローズアップで一方がロングショットという…かなりの視度差から発する強烈な違和感。これがシーンに緊張感を与えたり、なにかしら不安な気持ちを抱かせる効果を生んだりするのだが…

昔から、これをどういう風に撮っているのか皆目見当もつかなかったし、インターネット全盛の時代となった今でも、いろんな検索ワードを駆使しても調べることができなかったのだが…この度ようやくその方法が分かってとてもスッキリしている。

先ずこれら方法を用いたシーンをSPLIT FOCUS SHOTと呼ぶようだ。英語サイトから引っ張ってきたから正確さは微妙なところだが…たぶんそうだと。

どうやって撮るのかというとSplit Diopter Lensを使うらしい。左右半分に分かれていて一方にクローズアップが付いたレンズが一般的だと…市販のクローズアップレンズをガラス加工業者に半分カットしてもらえば自作もできると…

あと最近のビデオエディターであれば比較的簡単にポストプロダクションでこのショットを実現することも可能とか…。固定したカメラから別々に2回のテイクを行い、後で合成するだけで、似たような効果を得ることができるという。

『大統領の陰謀』ではワシントンポストの社内でのシーンが多いので、飽きさせない工夫なのかSPLIT FOCUS SHOTを多用している。やはり視度差からくる違和感が目立つので、なんだこれ?と自然と画面にのめり込む効果を上げている。

背景で忙しく働く名もない人たちにもキチンとピントを当ててあげる、そしてその場の空気として語っていくのは素晴らしい!

とにかく背景をボカしさえすればいい!という昨今のボケ信仰には嫌気がさす。猫も杓子も背景をボカす。それをオシャレだと疑わない魂胆が嫌だ。iPhoneの三つ目レンズの影響もあるのか?


アカデミー賞助演男優賞を受賞したJason Robards演じる編集長?(役職はよくわからない)ブラッドリーが机の上に足を乗せるのだが…小学生の頃に授業中によく同じことをやっていた自分を思い出し嫌な気持ちになる。偉そうに…

しかし、そんな上司の前でも構わずふんぞりかえって座るウッドワードとバーンスタインの態度の悪さも最高である。こんな奴らがいたっていい。いまは小さく無難にまとまりすぎてしまっている感があって面白みに欠ける。


ブラッドリー編集長
「最新の世論調査ではウォーターゲートを国民の半数が知らない…疲れただろう?家に帰るがいい。風呂に入って15分休んだら、また仕事だ。この苦境は君らの所為だからな。だが我々が守るべきは憲法修正第1条"報道の自由"この国の未来だ。たったそれだけだが、今度しくじったら許さんぞ。おやすみ」


世界報道自由度ランキング(2023)において日本は68位(昨年は71位)G7の中で最下位。[記者クラブの存在]や[特定秘密保護法]等が問題として言われているのだが…

いまいちこの重要性が日本国民にピンときてない気がする。報道自由度ランキングだから分かりにくいかもしれない…これを試しにFIFAランキングで考えてみてはどうだろうか?

2023年4月6日に発表されたFIFAランキングの最新では…日本は20位。どうだろうか?なかなかいいところにいるのではないだろうか?これもひとえに協会のバックアップと育成、さらに熱いファンたちが下支えして、Jリーグも30周年を迎えて、ようやくここまできたという感慨深いものがあるが…

因みに最低順位は2000年に記録した62位。98年に初のW杯出場を経て3連敗。癌細胞かのようなヘタクソがレギュラーに名を連ねるというまだまだサッカー後進国であり、発展途上の段階であった日本。

どうだろうか?報道自由度ランキングと照らし合わせてみると、その時の順位に近いのだ。今でこそFIFAランク20位となった日本なので、上から目線というか…アジア一次予選などではランキングの下位の国を完全に舐めて格下気分で勝って当然みたいな雰囲気をメディアからも感じるが…

これと同じことを報道自由度ランキングの上位国は日本に対して思ってるということだから。日本?ああ…質問すらさせてくれない国ね…と。

自分の住む国がそんななのかと思うと嫌な気持ちもなるが…どうしたら変われるのか?変われる?変わるつもりはあります?
いかんともしがたい…手段がないように思える。「日本を今一度、せんたくいたし申候」と坂本龍馬よろしく誰か丸洗いしてくれないかしら?


Carl Bernstein
「メディアは政府より強力です。しかし、私たちはその力を乱費しています(The media are more powerful than our government institutions, but we are squandering that power.)」 - 1999年
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