オーウェン

ジャスティスのオーウェンのレビュー・感想・評価

ジャスティス(1979年製作の映画)
4.5
この映画「ジャスティス」は、「夜の大捜査線」の名匠ノーマン・ジュイソン監督が、裁判の世界に材をとった熱血あふれる作品だ。

主演は、アル・パチーノ。「セルピコ」でも一途に正義の道を通し続ける警察官の姿を、実に鮮やかに演じていたが、この映画では正義の弁護士を演じています。

それも、その正義感を体で表現してしまう青年なのです。そして、硬骨ゆえに判事ともぶつかり、時に留置所へまで入れられることもあるのです。

実は、この映画がすこぶる面白いのは、このアル・パチーノの弁護士の姿を通して、平素、我々の見ることの出来ない”司法の世界の裏側”を見せてくれることです。

自分の弁護技術で釈放してやった男が、すぐまた二人の子供を殺したと聞き、やりきれない絶望感におそわれる弁護士もいる。

常に自殺を考えている判事もいる。
情けを一切拒否し、厳しい態度で臨む判事もいる。
その実、この判事は裏でサド・マゾにこり、判事という職を一つの権力だと考えている。

この司法の世界には、”絶対の正義”があるはずなのに、どろどろの”権力闘争”と、”狂気の人間集団”があるのです。

これで本当に人を裁けるのか? しょせんは、司法の世界の者だって人間じゃないか。
人間が人間を裁くということは、どういうことなのか、一歩間違ったら大変なことになる。

うっかりすると、悲壮感あふれて、じめじめしてしまう題材だが、ノーマン・ジュイソン監督は、さすが思い入れの情感が入り込まないダイナミックな演出で押し切ってしまうのだ。

狂気が支配している司法の世界を、冷徹な眼で見つめるノーマン・ジュイソン監督は、観る者に驚きを与えても不安を与えない。
こんな狂気の世界でも、正義への希望があることを、ラストの主人公の若い弁護士の表情で、見事に語るのだ。

「夜の大捜査線」で黒人問題に取り組み、「屋根の上のバイオリン弾き」ではユダヤ人問題を、「フィスト」では組合問題を、そしてこの「ジャスティス」で司法の世界を描いたノーマン・ジュイソン監督は、その後「アグネス」では、遂に神の問題にまで取り組んでいるのです。

「夜の大捜査線」以来、ノーマン・ジュイソン監督の正義論は、常に暖かい人間肯定で裏打ちされていて、だからこそ私の心を打つのです。
それだけに、この「ジャスティス」でのノーマン・ジュイソン監督の心の叫びは本物だと思う。
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