樋口一葉の短編小説『十三夜』『大つごもり』『にごりえ』の3編を原作とするオムニバス映画。
舞台は明治時代。第1編では家族同士で敬語を使って丁寧に挨拶しているのが新鮮で印象に残っている。今なら皇室が当てはまるのだろうか。一般家庭では到底考えられない時代になってしまった。
3編ともに貧しさと苦悩からくる女性の哀しみを涙声で語る場面が切ない。対して男性は身勝手な言動や行動が目に付いて同じ男性として情けない気持ちになった。
この作品には当時の文学座の劇団員が多数出演している。
ふだん舞台で演じるためには台詞をかんだり忘れないよう、稽古での読み合わせも含めて台本をしっかり覚えて本番に備えている。
踏まえて、今井正は演技指導に厳しく映像へのこだわりを持っている監督。映画人と舞台役者は緊張感の中で撮影に臨んだことだろう。
会話劇のような丁々発止のやり取りに場内は静まり返り最後までスクリーンから目を離すことができなかった。