三隅炎雄

ごろつき無宿の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

ごろつき無宿(1971年製作の映画)
4.5
脚本は澤井信一郎、伊藤俊也。高倉健と降旗コンビの映画ではこれがベストかも。深作や佐藤がやっていた高度成長日本への異議申し立て社会派とマキノ雅弘人情の世界の合体。
テキ屋の仕事が丁寧に描かれているのが良い。はい今日からテキ屋という風にはいかないことを描いている。
テキ屋上がりの漁業組合長山本麟一の苦しみ。『死んで貰います』と同じくらいにこの山本麟一が良い。漁業組合員のために一所懸命頑張る山本を見ているだけで涙が出る。やくざ映画で労働をしっかり描こうとしているのは貴重だ。

餡餅みんなで食べるところ、とっても良かった。息子高倉健以外は顔も見たことない母親北林谷栄がつくった握り飯と餡餅が、人をひととき連帯させる。いかにも高倉健の映画だと、私はボロボロ泣いた。

漁師たちから仕事を奪う悪徳資本家を殺しても、高倉健の心は晴れない。それは観客も同じだ。道を踏み外し親不孝者が生まれた。心の中の餡餅を踏み潰してしまった。たったひとり夜の海を見つめる健さん。見る者はその後ろ姿に、一緒に上京して体を壊してひっそり故郷へ帰っていった奈美悦子の寂しい後ろ姿を重ねるだろう。
三隅炎雄

三隅炎雄