茶一郎

恋愛社会学のススメの茶一郎のレビュー・感想・評価

恋愛社会学のススメ(2009年製作の映画)
3.7
男は石だらけの砂利道を進み、女は山道を歩きながらその男の様子を後ろから見つめる。その後、二人は道に迷う。この山登りのシーンが、男女2人の関係と人生を語っているような。
 今作『恋愛社会学のススメ』は、 『ありがとう、トニ・エルドマン』で全世界の映画賞を総なめにしたマーレン・アーデ監督の長編2作目にして、ベルリン国際映画祭・銀熊賞(審査員グランプリ)を獲得するなど、こちらも高い評価を得た作品になります。

 避暑地に来た夫婦二人のバカンスでのやり取りを映し続ける、一括りにするとドイツ版「倦怠期カップルモノ」ですが、その中でも特に物語性を排し、徹底的に生々しいカップルの苦悩を浮き彫りにしていきました。
 英題『Everyone Else』(その他のみんな)の通り、「愛はあるのに上手に伝えられない」痛々しいカップルあるあるを映し出す一方、邦題が『恋愛社会学』と言うだけあり、このカップルのすれ違いの問題が彼ら「個人」ではなくその「恋愛社会」の仕組み自体にあるのではないかと思わせるほど、じっくりナマモノの「恋愛」を見せつけます。
 どのカップルにもあるであろう不器用な二人のやり取りを見ていると、そもそも考えも性格も違う「他人」同士の二人が真に愛という感情を伝え合うことなどできないのではないかと、思ってしまいました。

 劇中でダントツに痛々しいのは、主役夫婦と男の同僚夫婦との比較です。男の同僚は冗談好きで家庭は明るく、おまけに奥様のお腹には子供がいるということで幸せの絶頂にいるカップル。一方で、主役夫婦は上述の通り、絶頂どころか山登りで道に迷う始末ですから、この二組のカップルの幸せの差は歴然です。主役夫婦は、この幸せなカップルの真似をしてみるものの全て裏目に出て、これまた観ているコチラとしては悶絶モノでした。

 世間体を気にして、少々エキセントリックな女に「普通」であって欲しいと願う男。優秀なはずの男の才能に期待しながらも、男と自分の能力の差を気にして、男に自分を捨てないで欲しいと願う女。
 この二人に「この愛をどう伝えればいいんだろう」なんて聞かれても困ります。もう「死んで生まれ変わるしかないのでは」と思うほどの関係が、文字通り「死んで生まれ変わる」。感情を伝えるのに、言葉や行動などは必要なく、二人が目と目を合わすだけだけでいい、ハッピーでもバッドでもある奇妙なラストは、いずれにしても二人の再スタートであることは間違いがありませんでした。
茶一郎

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