掛谷拓也

ブロンクス物語/愛につつまれた街の掛谷拓也のレビュー・感想・評価

3.6
91年の「ケープフィアー」までデニーロは多作で、当時は公開直後に彼の作品は映画館で見ていた。その後自分が映画を見る機会が減ったのか、タイトルが甘すぎると思ったからなのかこれまでこれは見ていなかった。デニーロの父親に捧げられた本作は見る前の印象通りあらゆる意味で甘い。ストーリー、音楽、映像すべてノスタルジック。イタリア人街の顔役ソニーを演じるチャズ・パルミンテリの少年時代の実際のエピソードらしく、パルミンテリの父親が実際にバス運転手をしていたとかという話を鑑賞後に読んだ。60年代ブロンクスのイタリア移民の生活が牧歌的に描かれていたが実際にそうだったのかどうか。20年代、30年代のアルカポネの時代とは様子が違う。デニーロのバス運転手の父親役は悪くない。バスに幼い息子を乗せて巡回路終点のシティアイランドまで行ってアイスクリームを食べさせ、ヤンキースの有名選手の記録を教える場面。運転席にぶら下げたトランジスタラジオで1960年のワールドシリーズのヤンキースの試合が流れる中、制服を着たデニーロの運転する古いバスが、真夏の日差しを浴びてブロンクスの並木通りを走る場面。1990年代の技術で1960年、主人公の息子カルジェロの子供時代を切り取っている場面は夢のように美しい。カルジェロが殺人事件を目撃しソニーを庇うことで親しくなり、ソニーの賭場に出入りするようになっても、ソニーはお気に入りのカルジェロには危険なことをさせず成長を見守るとか、父親のデニーロとソニーの間にも友情があるとか、カルジェロが黒人の美人の女の子に恋をするとか、こういうストーリーがいいという人もいると思う。でももし、93年のアメリカ文学、アメリカ演劇、アメリカ映画の流れで、当時の自分がこの映画を見たとすると、この臆面のないノスタルジーはついていけなかったと思う。それでも1960年の場面は文句なしに美しいのだが。