湯っ子

パリ20区、僕たちのクラスの湯っ子のレビュー・感想・評価

パリ20区、僕たちのクラス(2008年製作の映画)
4.5
すごく良かった。嘘くささが微塵もない(ように感じる、私はフランス人でも20区に行ったことあるわけでもないから、リアルは知らないけど)。ドキュメンタリーと間違えるくらい。過度な演出もなく、生徒たちは演技経験のないシロウトの中学生たち。ワークショップを経て撮影に臨んでいるそうだけど、演技とは思えない。そもそも、実生活で学校のクラスにいる時だって、それぞれ何かしらの役割を演じていたりするんだから、そう不思議なことではないのかも。そう考えると、演技ということの深淵をチラ見した気分になる。

パリ20区は移民が大多数を占め、治安もあまり良くない地域らしい。先生たちの態度も様々。
主人公の教師を演じたフランソワ・ベコドーは実体験をもとにした原作者でもあり、脚本にも関わっている。この先生が、本気で子供たちとぶつかり合って、時には本気でケンカする。この子たちが本当に手強くて、先生もついマジでムカついて、言っちゃいけないことを言っちゃうこともある。

フランスのお国柄なのか、生徒たちは誰もが教室で自由に思いを発言することができる。それは日本人の私から見るとすごいなぁと思うけど、やっぱり教室外や場合によっては教室内でも相手へのリスペクトなく衝突する場面もあり、良い面と悪い面がある。そのぶつかり合いは本人自身だけではなく、出自が絡んできたりするから、この小さな教室が世界そのものみたいだ。

私は、このクラスの生徒と主人公の先生が学んだもっとも大きなことは、「関係は修復できる」ってことじゃないかと思った。中盤、生徒たちと先生はある事件によって大きな断絶を経験する。どちらにも非はある。だけど先生という立場はたった一言の過ちも許されず、生徒から一時的に総スカンを食らう。だけど、それまでの先生の自分たちへの向き合い方を生徒たちは知っているから、生徒たちはほとぼりが冷めた頃にちゃんと先生を許せる。それは生徒たちにとって大きな成長だと思うし、先生からしても得難い経験だったと思う。

いつも反抗的な素行不良の少年スレイマンが、自分の撮ってきた写真を先生に褒められて嬉しそうにはにかんでいる表情には涙してしまった。
この後、彼には厳しい出来事が待っていて、しばらくは学校や大人を憎んだりするような気がするけど、いつか彼が大人になった時、そんなこともあったな、と、褒められたことを思い出して、暖かい気持ちになってくれたらいいなと思った。
湯っ子

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