てづか

東京裁判のてづかのレビュー・感想・評価

東京裁判(1983年製作の映画)
5.0
月並みな言葉だけど…すごい映画だ、と思う。

日本のしたことを別に擁護はしていない。
ただひたすらに戦争というものの色んな側面を、東京裁判をメインに据えて淡々と客観的に描いてゆく。

日本がどんどん戦争の方向へ向かっていってしまって止められない様子や、日独伊それぞれに別々に戦ってたりする様子や当時の各国の国民の雰囲気などが伝わってくるような構成で、すごく分かりやすかった。

戦犯とされた人達は本当にあの裁かれ方で良かったのか?という描き方もなんだか新鮮に感じた。日本のしたことを正当化はしないが、侵略と言うなら米国もそれをしているのでは、というインドの判事の意見や、裁判中は冷淡に思えたあの裁判長が裁判の前提自体に疑問を呈していたりするところが興味深かった。梅津さんの弁護人も、原爆投下が罪でないならなんでこれは罪になるのかと裁判自体に疑問を投げかけてて、そんなことを言う人もいたんだなと初めて知った。

結局はマッカーサーが天皇を利用して日本国民に言う事聞かせたかったから、東條英機に口裏を合わさせた感じなのかな?


戦犯とされた人達のなかにも、敵国である米国やソ連の外交官から友好的な証言を貰ってる人がいたり、人違いで殺されてしまった人や、部下や上司の罪を被って死んだ人など本当にいろんな立場で戦ってきた人がいるんだなというのが知れたと思う。

全ての責任を受止めるべく沈黙を続け、絞首刑が決まった際には傍聴席を一瞥して去っていった広田さんなどが印象的。

ちょっとだけ、セルゲイロズニツァの「粛清裁判」っぽさがあった。


そしていまだに戦争が繰り返され続けていることを突きつけて強烈な印象を残すあのラスト。
そこには日本がどうとか他国がどうとか関係なく、戦争そのものへの憎しみや無情さがあるように思えたし、観ているこちらへ強く訴えかけてきている感じが物凄くあった。

平和を誰もが望んでいるのに、そのための戒めとして裁かれたようなものなのに、結局は無くなっていない現実。

なぜ無くならないか、それはきっと誰もが戦争を忘れて生きてきたからだ。

それは誰にとってもみたくない現実であると思うけれども、だからこそみなければいけないものでもあって。
パンフレットにある「みたいものしかみない」「信じたいものしか信じない」みたいな文言にはハッとさせられた。

そこから抜け出すためにはやっぱり4時間半以上も映画館の椅子に自分の意思で自分を縛りつけて、こういう映画を観なくてはならないのだ。

みたくない現実は日常生活にもたくさん転がっている。毎日を好きなことだけしてやり過ごしていると、そういうものはみないふりで通り過ぎてしまう。

そんなものはまやかしの平和であり、まやかしの幸せでしかないのだというのが実感を持って私の胸に自戒として突き刺さった。

そういう意味で、本当に劇場で観られてよかったと思う。


4時間半くらいある映画なのに、小林正樹監督の映画は長さを感じない。
編集がいいのかなと思う。
一定のリズムで小気味よく進むナレーションと、挿入される映像がバチッとハマって観ていて気持ちがいい。でも、気持ちよく観てしまっているといきなり冷や水をかけるかのごとく凄惨な現実を突きつけられる。そのテンポ感も好きだった。

さまざまな世界情勢を交えながらメインの東京裁判がどんどん佳境へと進んでいくなかで、淡々としていたナレーションもジワジワと静かに熱を帯びてくる。

あとはもう実際の映像という画面の強さと吸引力が凄くて、本当にずっと興味深くて目が離せなかった。太田光の言う通り、こういうのが本当のエンターテインメントなのかもしれない。

もう1回と言わず、何度も観たいと思った作品だった。
てづか

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