【市川崑特集① 七十年経っても人間やってることは変わらない】
溝口、小津、成瀬と日本を代表する監督を連チャンで観てきたが、今回からは市川崑監督を集中的に。
特に脚本家である奥さん・和田夏十さんとコンビを組んだ黄金期から何本かチョイス。
まずは初期の代表作である社会戯評映画『プーサン』。
漫画家・横山泰三の一コマ漫画を原作にした本作。劇中、警察官役で横山泰三と兄の横山隆一が特別出演している(しかもとってもシュールな起用のされ方)。
インチキ予備校で数学を教えている野呂さん(演:伊藤雄之助)。名前の通り人よりワンテンポ遅れていていつも割りを食う始末のお人。
トラックに轢かれそうになり利き手を骨折したり、生徒に誘われて共産党デモに参加したことがバレて予備校をクビにされたりと。
さらには、ほのかに恋心を抱いていた下宿先の一人娘・カン子(演:越路吹雪)も実は会社の同僚(作曲家の黛敏郎がカメオ出演)と恋仲になっていて仕事もプライベートも涙ぐましいことこの上ない。
昭和二十年代という荒波に揉まれる野呂を中心に、共産党デモ、戦犯の公職復帰、就職難、警察予備隊といった当時の世相を市川崑らしい乾いたタッチで活写する。
"日本のミシェル・シモン"こと伊藤雄之助の怪演が堪能できる一本。頭にキャベツをのせて笑う伊藤のビジュアルの物凄さよ(&三好栄子のリアクション)。
なお伊藤が演じるのは、その他多くの作品で彼が演じたような粗暴な役柄ではなく、マイペースでお人好しのキャラクターを見事に演じている。
劇中、伊藤扮する野呂が「なんでこんなつまらないことで皆ケンカばかりするのかなあ」とナレーションで吐く台詞があるが、昨今のニュースを見るたびにこの言葉はいまだに古びていないという感がある。
本作では特に日本の再軍備に関して神経を尖らせている描写が多い。従軍経験のある野呂は、行進する警察予備隊やジープの一団の姿を見るたびに思わず目を覆う。
当時そのような言葉は日本になかったが明らかに戦争のPTSDによるものである。
そんな彼がやっと再就職できた先は戦争関係の企業で、戦争アレルギーは根強いものの、背に腹はかえられず、時代に適応して生きるしかない哀れさが感じられる。
ラスト、早朝の街中をとぼとぼと歩き、画面奥へと去っていく野呂の姿は『モダン・タイムズ』のチャップリンを彷彿させるようだった。
■映画 DATA==========================
監督:市川崑
脚本:和田夏十
製作:藤本真澄
音楽:黛敏郎
撮影:中井朝一
公開:1953年4月15日(日)