てづか

ひろしまのてづかのレビュー・感想・評価

ひろしま(1953年製作の映画)
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この映画に関しては、「あるがまま」から目を逸らさずとにかく「観なくてはならない」と強く感じた。

あの地獄にあっては、名前など意味もなさず、数多の人間の物語が跡形もなく消し去られていく。人間としての尊厳など欠片も残らない。ただ、生と死の存在があの街全体にでろりと横たわり、その境で苦しむ人間がいるだけだ。
もはや人間を物体としか形容できない状況。
希望に縋っても否応なく現実は突きつけられる。

これだけ多くの人間の命を一瞬で奪ってしまえる人間とは、一体何なのだろう?
原子爆弾をつくりあげたときに、人間は神にも似たなにかになってしまったのかな、とも思ってしまう


ラスト付近で「安らかに眠ってください」とあったが、あれほどの地獄の中で死んでいった人たちがどうやって安らかに眠れるというのだろう?

「過ちは繰り返しませんから」ともあったが、ならばなぜ他でもない日本人は原爆の存在を記憶の底に閉じ込めようとするのだろう?

原子力の恐ろしさを知りながらも共存したつもりになって、なんとなくでその恐怖とは背を向けたまま生き続けている。

いまを生きる私たちの未来が、明日が、数秒後が、こうならないとは限らないのに。
戦争じゃなくても、自然災害や伝染病でも同じことは起こるという意識は持っていなきゃいけないと思う。

決して他人事ではないからこそ、この近代日本史で起きた事実を無かったことにしてはいけないのだという制作陣の強い思いを感じた。

映画は最後に復興後とされる「現在」にも着地する。その意味を考えると、自分としては身につまされるような感覚にもなった。

世の中で起こる全てのことは、やっぱり戦争の中にあるのかもしれない。
てづか

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