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ことの終わりのotomisanのレビュー・感想・評価

ことの終わり(1999年製作の映画)
4.4
 事実は小説より奇だそうだが、なるほど小説家のベンドリクスがこの不倫行を一番ありきたりに見ていた。もっともサラとヘンリーの二人が普通とは違うのだが。
 小説の中にしかいそうにないサラとヘンリーだが、この映画の中で実によく描かれている。無論、妻を喜ばせない夫と不倫に走る妻では好かろうはずがない。しかし他方でこの二人は、夫失格を申し訳なく悩む夫であり、心から愛する男に奇跡を賜るため男への愛を断つ女でもある。この一歩退いた姿勢に歯がゆい気がするが仕方ない。何せそうなのだから。
 そうなので仕方ないのだが、ベンドリクスは収まらない。スペインで理想を失って、やっとサラを我が手にしたものをいないはずの神が召し上げていくのだから。イギリスでは人生到る所神がおわす。断った愛を再燃させたサラに余命が告げられる件、探偵小僧のあざが消えてしまう話、神の影を感じずに居れない。ベンドリクスも同様で、だから怒り憎み、認めざるを得なくなる。
 神を落し処に据えるのは気にくわないが、それでもいいと思った。何がと言えば、小説家とヘンリーの余生がおかしな二人としてこの先続いていくであろう事に妙な安心感を覚えるからである。信仰を持とうと持つまいとヘンリーはもの悲し気に、小説家は軒昂に刹那に生きていくだろう。それから探偵小僧である。表だけでは生ききれない大人の裏を暴いて鼻を明かすばかりでは人生迂遠に過ぎるだろうと思っていたら、ちゃんと神様は転機を用意してくれた。奇跡+サラの愛情はきっと効くだろう。
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