青野姦太郎

狐のくれた赤ん坊の青野姦太郎のレビュー・感想・評価

狐のくれた赤ん坊(1971年製作の映画)
4.5
寅八(勝新太郎)の息子善太(香川雅人)が大名行列に対する不敬罪で捕らえられたものの、寅八必死の懇願によりなんとか許しを得て親子ともども屋敷から飛び出してくる場面。もはや半分諦めかけ、棺桶を背負いながら屋敷へ向かっていた村人たちが、彼らの姿を発見して大喜びで駆け寄って行く様子がその背後からのロングショットで捉えられる。そして、同時に、その集団から取り残されるように行き遅れるおとき(大谷直子)の背中、そして彼女が背負った黄色い帯もまた、同ショット内でスクリーンへと刻み込まれる。このあまりにも美しいショットは、皆から「遅れてしまう」という、おときという人物の持つ性格、そして、もっと根本的な彼女の本質のようなものを端的に示している。見事な手際で印象付けられたこの黄色い帯が、もはや物語がほとんど終わりかける中、再び「遅れてしまう」瞬間が訪れた時、彼女が持つその本質だけが、ある種の救いを与えてくれることに、心を打たれずにはいられない。