むっしゅたいやき

デ・ジャ・ヴュのむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

デ・ジャ・ヴュ(1987年製作の映画)
4.0
スイスの鬼才、ダニエル・シュミット監督作。
既視体験を繰り返し二つの時代を彷徨う主人公を通し、時の不在とその意義、輪廻転生へも考察を及ぼす作品である。

本作は17世紀のスイスの英雄、ゲオルグ・イェナチュ(Georg Jenatsch)の最期を描いた作品でもある。
彼はプロテスタントから憎んでいた筈のカトリックへ改宗し、フランス、後年は本来敵であったドイツ=オーストラリアへ擦り寄ってスイス内グラウビュンデン州の独立、そして何より自己の富と栄誉を守ろうとした。
州内に於けるフォン・プランタ及び彼の改宗を良しとしない諸宗教勢力との血みどろの政争もあり、現在同地に於いても評価の別れる人物である。

シュミットは彼の惨殺に立ち会う既視体験を描くに当たり、鈴と斧、プランタ嬢と云う三つの舞台装置を用意している。
その上で既視体験とは、"時間などは本当は無く、単に切り取り方、見え方が違うだけなのだ"、と説明するのである。
即ち、クリストフの既視体験とは、"当時現場に居合わせた人の目を窓として物事を見、干渉する"事であり、"過去だけでなく未来の人物の目を借りる場合もある"、"時は不在である"とする不安定な思想だと言えよう。

作品概要に移る。
本作はその映像を、ほんのりと青みがかり、且つ精緻な描写力を誇るツァイスに似たレンズで撮影されており、スイスの空気の澄明さ、それによる影と夜の闇のの濃さを余すこと無くフィルムへ載せている。
またこの色味は本作に幽玄さを齎し、鑑賞者には夢と現のあわいを意識させることに成功している。

プロットに就いてはW.F.ハーヴィーやH.ケラー、シャーリィ・ジャクスンに代表されるサイコ・ホラーの文脈に属する。
誰が送ったのか分からない鈴と雪の様な梱包材が、美しくも儚さを掻き立てる作品である。
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