あ

斬るのあのレビュー・感想・評価

斬る(1962年製作の映画)
5.0
最初画面の端からスーッと横顔を見せた藤子が足早に妾の元へ行き、ひらひらと舞いながら、ついに広い庭で妾を殺すと、後ろの障子が一斉に開いて女中がわらわら出てくるシーンの躍動感が素晴らしく、そして、刑場の扉が開くところは、「剣」で引き戸が開いて海が飛び込んでくるところや、「捜索者」(これはシネスコではないけども)のオープニングのように、横長の広い画面をでかでかと強調していて、もうシネスコのうまみが十分すぎるほどありましたが、当然のように何度もおかわりが来るわんこそば映画でした。

ススキの野原で忍びたちを目にも止まらぬ速さで斬り払っていって、最後刀を拭った紙が空へ舞うカタルシスがたまらない殺陣も素晴らしかったですが、やはり「剣」と同様に水辺にせり出すシーンが素晴らしく、水戸藩士との斬り合いの一瞬の勝負が永遠に感じました。

そして、水戸藩士との勝負で何気に変えた型が、ラスト桜の花での二段構えに繋がるのは思いもよらなかったです。脚本が新藤兼人の割には物語が少々観念的でしたが、そうであるが故に引き立つ演出の旨みが確かにありました。

また、市川雷蔵のアドレッセントな雰囲気が、親の存在に飢えたキャラクターと絶妙にマッチしていましたし、だからこそ女の体にはエロスよりも母性があって、そこに強い太陽のイメージ=母性の強さが生きていました。
あ