SatoshiFujiwara

人間の約束のSatoshiFujiwaraのレビュー・感想・評価

人間の約束(1986年製作の映画)
4.3
『日本脱出』に次いで吉田喜重の未見作潰し。なんとなく避けていた感じはあったが傑作だった。まず印象に残るのはどの場面にも貫かれる幾何学的とも言える非常に精緻な構図で、敢えて言ってしまえば吉田が常に意識している小津安二郎にも通じるものを感じる。事が起こった直後とその後を作品の両脇に配し、真ん中にはそれに至る経緯を時勢をさかのぼって全く自然に見せる辺りの手腕が素晴らしい(数日前に見た『最初の晩餐』とは雲泥の差…。まだキャリアが浅くこれで長編デビューした常盤司郎と吉田喜重を比べても仕方ないけど)。

ストーリー上では三世代同居の上での老人介護の様相をフォローしながらも、他の吉田作品にも出現する「鏡」(広い意味で「写るもの」)はある時はそれぞれの人物のいわば本音と「こう振る舞うべき」という体裁の分裂を抉り出したり、あるいはボケはじめた亮作(三國連太郎)とその妻タツ(村瀬幸子)の老醜をあからさまに提示したり、さらには現実逃避のためにこの2人の息子である依志男(河原崎長一郎)が恐らく相手の女に大して関心もないのになんとなくしてしまう浮気をその妻律子(佐藤オリエ)に問われた際の空虚な夫婦の関係性を象徴させたりと、ある意味で吉田作品のトレードマークとも言えるそれは自己模倣に至らず有効に話に組み込まれて機能しているさまもまた心躍る(こんな滅入る話でこの形容もなんだけど)。鏡は個人/家族関係の分裂をあぶり出す装置となる。

他の画面的には風呂に沈むタツの髪の毛とタツがしばしば話す故郷の池の「藻」のイメージ連鎖、望んでいながら実際には行っていないであろう亮作とタツの西国巡礼の様子(ロングの俯瞰なので顔は見えない)、そしてボケて屑をかき集める亮作を道で発見した際の依志男、オリエ、その息子鷹男(杉本哲太。若い!)、娘直子(武田久美子。こちらも若い!)の4人を正面から捉えたショットの格好良さ、など見どころが多い。また、屋内の障子の出現は本作から16年も後の作品ではあるが『鏡の女たち』(これも鏡)を想起させずにはおかない。そしていきなりの「生理、女性の胸、口紅」がまた吉田的生々しさで軽く引く(褒め言葉です)。刑事役として若山富三郎が出ているがさすがの味わい、まだ20代半ばだった佐藤浩市(言うまでもなく三國連太郎の息子です)はまあまあ(笑)。
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