うめまつ

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドアのうめまつのレビュー・感想・評価

3.8
男の子の夢が詰まってるな〜という印象で、面白かったんだけど今ひとつノリ切れなかった。もうちょっと渋くてニヒルな?作風を期待してたけど、結構明るいドタバタコメディで拍子抜けした。二人の逃避行を応援したい気持ちと、明日死ぬからって何してもいい訳じゃないのよ坊や達、と戒めたくなる気持ちとのせめぎ合い。浪漫の欠片も元も子もない事言うけど、車を盗んだり強盗したりしなくても海は見に行けるよね。

全く意図してなかったけど構造が似ている『テルマ&ルイーズ』の直後に観てしまったのがよくなかった。どうしても女同士の逃避行のが応援したいし、テルマとルイーズの行動原理の方が理解できるし、物語に社会問題も孕んでいて作品自体が分厚く感じる。こちらの二人は恐らく30代半ばくらいだと思うけど中身が中学生に見えたし、それを微笑ましくも感じたけど、それぞれの背景があまり語られないので実在感が乏しく感じた。何より《死》という大義名分の元なら好き勝手にやってもいいよと促しているようにも見えて、心の中のPTA役員がソワソワした。私はタランティーノを見てても倫理観が邪魔をして100%は楽しめない頭の硬い人間なのです。

時代性と言えばそれまでだけど、母親以外の女性は全員《女》という記号でしかなく、性的対象としてしか描かれてなかったのも残念。死ぬ前の願望を叶えるために娼館に行くのはいいけど、そこの娼婦を全員トップレスにして並べて舐めるように撮る必要はなかったよね。セクシーな女性が出て来てくれるのはどんとこいなんだけど、そこに意志があるようには描かれていないから、まるで魚屋で活きの良いマグロを品定めするみたいだった。そういうところに漲る女体消費願望が2024年の今見ると居心地が悪かったし、子供っぽく感じた。公開当時に観てれば多分気にならなかったと思う。

ただこの重いテーマを軽妙なトーンに仕立てることで、あの忘れ難いラストシーンを引き出している事は理解できるし、この装飾は破茶滅茶だけど筋は削ぎ落としたミニマムさが持ち味なんだろうし、何より90分に収まっているのが素晴らしい。殺されそうになった時思わず目瞑って手繋いじゃうとこがトムとジェリーみたいで可愛いかった。いっぱい文句書いたけど、しっかり楽しんだのは事実です。もっと早く見ておきたかった。
うめまつ

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