えいがうるふ

無能の人のえいがうるふのレビュー・感想・評価

無能の人(1991年製作の映画)
4.1
地味の中に滋味があり、持たざる人間の人生のやりきれなさとおかしみ、そのしがない日々を淡々と描きつつその奥に滾る情熱と昭和のエロスをも匂わせる原作の味をかなりいい感じに映像化していると思った。ラストシーンの遠景なんて、まさに自分が抱いていた原作のイメージそのもの。ある意味、観る者の原作への評価がそのまま映画の評価にも繋がるような気がした。
キャストがまた地味に豪華でニヤニヤしてしまう。特に、竹中直人演じる主人公の絶妙な無能感と神戸浩の天然異能ぶりが相まって、二人が並んでる絵の醸す空気の濃さがすごい。

強いて言えば、ゴンチチの音楽が鄙びた河原の情景にそぐわないほど明るく軽快なので若干作品の雰囲気から浮いていたような気がする。ゴンチチの音自体は大好きなのだが。

たまたま調布市のイベントで上映会があり、アフタートークで監督本人から当時の撮影秘話が聞けたのが滅法面白かった。
そもそも初めて映画を撮ることになった経緯から、とにかく風吹ジュンにべた惚れだった話、思いがけず出演が叶ったつげ義春氏のこと、鳥男を演じた神代辰巳氏のハラハラした大雨の中でのロケ裏話、ここぞというところで声だけ出演してもらった泉谷しげる氏のエピソードなどなど、放っておくとどこまでも脱線し興が乗ればつい形態模写が始まってしまう監督ならではの思い出しトークがそれだけでお金とれるぐらい面白く(まさかの無料イベントだったが)、ずっと聞いていたいぐらいだった。