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母べえのkuuのレビュー・感想・評価

母べえ(2007年製作の映画)
3.9
『母べえ』
製作年 2007年。上映時間 132分。
山田洋次監督&吉永小百合主演による人間ドラマ。
黒澤明監督作品のスクリプターとして活躍した野上照代の自伝的小説を原作に、激動の昭和初期をたくましく生き抜こうとする1人の母の姿を通して家族の素晴らしさを描き出す。

昭和15年の東京。
野上佳代は夫の滋や2人の娘と仲睦まじく暮らしていた。
しかし、戦争反対を訴えていた滋が治安維持法で検挙されてしまう。

昨夜、BS松竹東急『よる8銀座シネマ』にて視聴。

山田洋次監督の映画の世界に足を踏み入れたんは、『男はつらいよ』シリーズかな。
それから『たそがれ清兵衛』、『隠し剣 鬼の爪』、『愛と誉れ』の味あるサムライ3部作は結構、嵌まった。
『釣りバカ日誌』も実写化は漫画からは独立感じで嫌いではない。
この多作なベテラン監督のフィルモグラフィーを見ていると愛を感じる。
黒沢プロダクション・マネージャーであり、日本の映画スクリプターの野上照代の自伝を基にした『母べえ』は、母 "かべえ "佳代(吉永小百合)、父 "父べえ "滋(10代目坂東三津五郎)、長女"はつべえ"初子(志田未来)、末っ子"てるべえ"照美(佐藤未来)の4人家族の物語である。
日本が中国での『聖戦』を開始し、その後第二次世界大戦に参加した1930年代後半を舞台に、滋は国家に反する道徳的な著作を書いたとして治安維持法で逮捕され、彼らの人生は最初から一変することになる。
家族を養うために仕事を持ち続け、獄中の夫と度々、困難な面会を重ねる母べえの苦闘が始まる。
母べえの実父は彼女の配偶者選びについて『だから云っただろう』という態度をとっていた。
滋のかつての教え子であった山ちゃん(国宝級の顔面アインシュタインの稲田直樹になんとなく似た風体浅野忠信に注目)は、不器用な男として笑いを提供してくれるが、徐々に子供たちの相談相手となり、保護者代わりとなっていく。
また、母べえの義理の妹で広島出身のヒサコ(檀れい)は、映画の時間軸が進むにつれて、彼女の不運な運命に警鐘を鳴らすことになる。
今作品では、子供たちが母親のもとで、父親と遠く離れた関係の中でどのように成長していくかが主なテーマになっているが、特に楽しめたのは、当時の日本の市民に影響を与えた世界規模のマクロな出来事のもとで、ミクロな家族の出来事がどのように展開していくかということ。
日本が地域支配を推し進めようとする歴史的背景の中で、この登場人物たちはその野心を隠すことなく、征服された土地を保持することに成功した場合、日本が最終的に何をするかについてさえ議論している。
これは日本映画ではめったに見られないことちゃうかな。
当時のことを率直に語っている。
また、庶民が国内の問題といかに闘わなければならないかを垣間見ることができる貴重なモノと云える。
ここにキャスティングされた俳優陣は、ベテランであれ子役であれ、演技も役柄も巧み。
女優の吉永小百合は、困難な状況下で家庭を切り盛りするために、心の奥底にある強さを見出さなければならない母親役で特筆に値するし、志田未来と佐藤未来は、やりくりと妥協を学ばなければならない理解ある子供役で愛すべき存在を善く演じていた。
3人が一緒にいるシーンはどれも、困難な状況下では胸が締め付けられるような気持ちにさせ、お祝い事では胸がいっぱいになる。
山田洋次監督が子供たちから自然な演技を引き出すなど、主要キャストの力強い演技のおかげで、いつの間にか自分もこの家族の一員になりたいと思うようになった。
今作品は、目を見張るような美しい美術演出を誇り、ハッピーな場面も悲しい場面も、大げさになりすぎず、安っぽいメロドラマに頼ることなく、観客の求める感情を安っぽくすることなく、上品に表現している。
どのシーンも無駄がなく、思いやりにせよ愛にせよ、メッセージを伝える上で非常に意味のあるニュアンスで描かれていました。
唐突な結末を除けば(2時間以上の上映時間にもかかわらず、もっともっと続けてほしかった)、この『母べえ』は嵌まった。
泪をこらえるのも、自分の母親と彼女が日常的に自分のために払っていた犠牲について思いを馳せるのも、どちらも難しいことに気づくだろう。
その犠牲とは何なのか、エンドロールのシーンで改めて思い起こすことができた。

死に目にも会えなかった母に一度でいいし会いたい。。。
kuu

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