認知症を主軸にしながらも、深い愛に包まれた夫婦の物語。
渡辺謙主演作の中で一番好きで、当時劇場で観た時に涙が止まらなかった。
堤幸彦監督作品と普段相性が悪いのだが、この作品は彼の作品群の中で一番、人間味と味わいを感じさせられた。
若年性アルツハイマー病に侵された仕事人間が、ひとつひとつ記憶が失われ、大切なものが失われ、そして最後に何が残るのか。
ふとした異変から、日常が瓦解していく過程がスリリングでもあり、身につまされる恐怖感を堤監督としては抑えた映像と渡辺謙の表現力で引き込まれる。
苦悩、あがき、哀しみ。
妻役の樋口可南子も素晴らしい。
アルツハイマー病を告知された渡辺謙と、病院の階段で2人で泣いてしまう場面。
記憶だけでなく人格も壊れていく夫を頑張って、頑張って支えながらも、爆発して思いの丈を吐き出すシーン。
苦しい妻の心の悲鳴が心揺さぶる。
そして
ついに自分のことすら忘れていく夫を山道で見つめる切なくどこか達観した表情。
全てを失った後に残る、大切なものって何だろう。
そのありか、淡い光の筋がすっと走るようなエンディングも余韻を残す。
ふと立ち止まって、自らを振り返るきっかけをくれるような素敵な映画だと思う。