中村錦之助の好演とマキノ雅弘監督の情緒に満ちた演出により娯楽時代劇としての題材が、ある若い男女の挫折と再生を描いた神々しい青春ドラマに昇華された逸品。自分の未熟さゆえのしくじりで大事な人を傷つけたことに苦悩しつつ落とし前をつけようとする弥太郎の心意気、弥太郎を慕いつつも様々な憶測に揺れ動くお雪、二人の心情が繊細に描かれ観客の心を揺さぶる。
主人公二人にとって重要な場面となるお祭りのシーンの美しさ、提灯やお面といったアイテムが効果的に使われている。
東映ならでは広くフレームを使い人数を多くおさめて賑やかさを出すカメラワークが、前半ではマキノ流の賑やかな雰囲気を醸し出し、後半では孤独になった主人公二人の寂廖とした心情を一層際立たせる。
ヒロインというのは大抵みんなから尊敬される立場だが、この映画のお雪はみんなに可愛がられつつもからかわれたり冷やかされたりする。そういうキャラクターが成立するのは丘さとみの親しみやすい個性があればこそ。
いつもの大団円と違い、二人の再出発を弥太郎の友人である東千代之介が静かに見守るラストが独特な余韻を残す。