このレビューはネタバレを含みます
"FAKE"
単純に映画としての話です。この映画の凄い点は二つあって、それは"人が成長する瞬間を見せてしまったこと"と"主観と客観の入れ替わる瞬間を見せていること"でしかもその二つが表裏一体であることです。
人が成長する瞬間というのはもちろん、外国人記者たちの質問責めと森監督の助言によって佐村河内氏が新曲を製作したこと。世間からの非難を浴びて地の果てにまで落ちた夫妻の愛と再生の物語のことです。この点だけを持ってすればいわば"負け犬たちのonce again物"になっている。
主観と客観が入れ替わる瞬間というのは、新曲が披露されたとき。それまで監督は自分が映るとき以外は常に客観的に画面を作ってきた。だがなんとこのシーンでは監督の靴下が映り込んでいるのだ。客観だったはずのものが実は主観であると宣告される。ようはこのドキュメンタリーはヤラセだよということである。
ヤラセという言葉から受け取るイメージには大小がある。森監督が介入した時点でヤラセであるのか、それとも実話新曲なんてなかったということなのか。その真相は僕にはわからないが、もしこれがヤラセならば前述のonce again物という話は嘘になる?
僕らには表面しか伝えられずラストを迎える。そして限りなくグレーなまま終焉を迎えるFAKE。このラストにはズルいと思いながらも、映画としては完璧と言える。
ただ一つ言えることは
「ドキュメンタリーほど罪深いエンターメイメントはない」