似太郎

懲役十八年の似太郎のネタバレレビュー・内容・結末

懲役十八年(1967年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

【反抗】

脚本、笠原和夫と森田新で贈る加藤泰の「戦中・戦後三部作」の完結篇。

★ストーリー★

敗戦後の混乱期、戦争から帰ってきた男たちがいた。そのひとりは元・海軍大尉だった川田(安藤昇)で、副官だった川田の部下塚田(小池朝雄)と共に米軍の物資などを手に入れ、それを戦争遺族たちの援助に回し、いつか遺族たちだけのマーケットを作ることを夢見ている。

ヒロインの比佐子(桜町弘子)が良い。この映画は囚人となった川田、塚田に思いを寄せる比佐子の強かな「生」と、戦後どさくさの中を懸命に生きる男たちの熱苦しい生き様を描いた任侠映画であり、囚人映画でもある。

後半、塚田(小池朝雄)が「川田、貴様には俺の生き様が分からんのだ!今の世の中には、今の世の中の生き方があるんだ。貴様の頭の中にあるのは敗戦国の亡霊なんだ!世の中は動いていくんだ!変わっていくんだぞ、川田!」その言葉を、川田は断固拒否する。

「変わりたくないんだ!」

この塚田こそ、戦後の日本人が一般的に容認し実践してきたことの根幹にある発想ではないか、と監督は問いかけるのである。

権力者に操られた戦争はもちろん最大の悪だ。しかし、民主主義の美名の下に進んできた道のりに本当に誤謬はないのか?と加藤泰は重い問いを観客に対して激しく問いかける。答えは、われわれ観客がひとりひとり考えることだ。
エンタメという形を借りて加藤は、戦後の日本人へ大きな疑義を突きつけたのだと思う。

そのあと川田は比佐子(桜町弘子)を救助し、マーケットの権利書や女たちの証文等を奪い返す。一緒に来てくれと懇願する比佐子に、まだあることがあるんだと言って、大混乱の中、川田は塚田と対決して塚田を銃で倒す。その呆然とした塚田の愛人及川静江の顔面アップ。投降する川田。ストップモーションで苦悶するそれぞれの登場人物の顔面アップをバックに、映画は川田の顔に「完」の文字を叩きつけた。

加藤泰らしい冷徹な戦後史観と「愛憎」というアンビバレンツなテーマを内包した、純活劇としての魅力に溢れた東映やくざ映画の異色作である。ローアングルだの長回しだの加藤の技巧面の話はこの際どうでもいい。この監督が抱える「戦後日本への猜疑心」が『男の顔は履歴書』同様にひどく滲み出ている点が出色。
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