荒野の狼

地球が静止する日の荒野の狼のレビュー・感想・評価

地球が静止する日(2008年製作の映画)
5.0
SF映画として飽きずに楽しめる映画だが、含まれているメッセージは深い映画。地球を破滅に導くのは人類で、果たして破壊的な性質である人間とは変わることができるのか、というのが大きなテーマ。描かれているアメリカ政府は傲慢で攻撃的、主人公の科学者は宇宙人のキアヌ・リーブスに終始好意的。ところが、究極のところキアヌの判断に影響を及ぼすのは、最初はキアヌを殺そうと思っていた科学者の息子ジェイコブ少年の変化だった。
私が、この映画を見るきっかけは、映画の中でバッハのゴールドベルク変奏曲が効果的に使われていると薦める評を読んだことである。クラシックを全く解さない私であったが、それを機に2年余りバッハを中心に学習した成果か、変奏曲が映画の中でキアヌが教授宅を訪れるシーンで流れた時はある種の共感を持って聞くことができた。
キアヌは変奏曲の美しさを、宇宙人ながら即座に理解し、居合わせたバーンハート教授をして、我々と感性は同じであると言わしめる。しかし、ここを美しいものを美しいと受け取る直観的な感性が人間と宇宙人と同じであり、美しいものイコール善なるものと受け取れるかといえば、歴史的には否である。バッハは生前二流の音楽家ですらなく、死後75年間忘れさられ、ゴールドベルク変奏曲が人気を得るのは死後200年を経てからであった。これは変奏曲の深い鑑賞には曲の複雑な構成の理解が必要なためであるが、バッハの同時代の人に評価されなかったものが、後世の人が学習し「変わった」ために受け入れられるようになったと言える。
キアヌは本作で、最初は人間は変われぬものと切り捨てようとするが、後に人間は変われるものと、ジェイコブ少年を見て評価を変える(この意味でキアヌ自身は変われる人間である)。本作にも自分という者を変えることができない人物が登場する。現代にも、芸術や思想の世界などには、「わかる人にはわかる わからない人には説明しても無駄」と、人が学習することによって変われることを信じない人がいる。そうした人にこそ、ゴールドベルク変奏曲の歴史的変遷や、この映画のジェイコブ少年を見て、人というものは変われるものだということに希望を持って欲しいものである。
他に感動的なメッセージは、人はたとえ死んでも、その存在が完全に消え去ることはないというもので、次のキアヌのセリフに現れる。
“Jacob, nothing ever truly dies. The universe wastes nothing. Everything is simply transformed.”

最後に次のJacobとキアヌの会話は感動的

Jacob: I told Helen we should kill you.
Keanu: Yes, I heard that.
Jacob: I didn’t mean it, though.
Keanu: You didn’t?
Jacob: Well, not any more.
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