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ある秘密のSariのレビュー・感想・評価

ある秘密(2007年製作の映画)
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ユダヤ人の精神科医で作家のフィリップ・グランベールが自らの実体験をもとに執筆した同名ベストセラー小説が原作。

第二次世界大戦下のフランス。パリに暮らすあるユダヤ人一家の物語を描いたドラマ。

モノクロで描かれる現在の部分は、大人のフランソワをマチュー・アマルリックが演じ、少年時代の回想劇の部分はカラーで描かれる。

冒頭は少年時代のフランソワの視点で始まる。父は体操選手、母は元モデルで運動が得意な両親を持つ主人公のフランソワは、空想の世界で、自分には兄が居るかのような虚構を創り出していた。父からは愛されていないと感じていたフランソワは屋根裏部屋で古いぬいぐるみを見つけたことをきっかけに、両親の知られざる過去を知る。
第二次世界大戦下、 父マキシムは母タニアと一緒になる前、アンナという女性と結婚し息子シモンをもうけていた。シモンはフランソワにとっては腹違いの兄となる。シモンは幼い頃から運動神経がよく、そんな息子を父は溺愛していた。しかしマキシムは結婚式で妻の兄嫁タニアに出会い心を惹かれてしまい、それを知ったアンナは精神が不安定になっていく。ナチスのユダヤ人迫害が激しさを増していく中、 彼らの一族や友人たちはパリを離れるが...

前述した通り、現在のパートがモノクロ、過去がカラーで描かれる。映画での時空表現では、モノクロは過去でカラーが現在と反転した構成。ナチスに翻弄されたフランソワと両親の運命。例えば、最初の妻アンナが息子がフランス人としてホロコーストを生き延びて悲劇は免れていたならば…戦争の残酷さと共に運命論的な側面も浮かび上がる。第二次世界大戦中のアーカイブ映像を織り交ぜ、モノクロで現在も悲しみは癒えないことを、戦争が風化しない事を示す。最後にはカラーに転換し、フランソワが家族、娘を儲けている描写で終わるのは希望を感じさせる。この年のセザールでは最多の受賞作であったことも納得する歴史ドラマと言っても過言ではない出来栄えである。
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