乾燥ちゃん

重力ピエロの乾燥ちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

重力ピエロ(2009年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

原作未読、あらすじも敢えて見ずに視聴。

季節は春、"春が2階から落ちてきた" というとても印象的な言葉で幕を開ける。

真面目でおとなしそうな兄・泉水と、いかにもモテそうでかっこいい弟・春。
学生服姿の春に野球バットを渡す泉水。
クラスの高飛車な女子が男子生徒に襲われそうになっていて、どうやらそれを止めに行きたいらしい。キャーっと声が聞こえてすぐさま走り出す春。校舎の2階が現場になっていて、バットを持って現れた春にビビった男子生徒たちは階段に向かって一目散、外へと逃げ出す。
次の瞬間、春は窓から華麗に飛び降りて1階へ着地、男子生徒たちをボコボコにする。2階から落ちてきたのは、"弟の春"だった。

ーーー感想ーーー
まず、"春が2階から落ちてきた"ってセリフですごく心を掴まれた。"春"とは桜の花びらのことか、春という概念のことか…何を指してるんだろうな?と思いながら見ていると、泉水の弟・春が2階から飛び降りるところで、ああ"春"って"弟"のことだったんだってわかる。なるほどなあ。
冒頭一連の、学生服姿の岡田将生がめちゃくちゃかっこよくて感動した。

引き続き物語を追っていくと、泉水は大学院で遺伝子の研究をしていて、春は街中に描かれたグラフティアートを消す仕事をしている。
兄弟仲は良好そうで、これまた人の良さそうなお父さんと3人家族らしい。お母さんは他界している。
近所では連続放火事件が起きていて、その犯人を見つけるために張り込みをするという春、それに付き合う泉水。
事件を追うふたりは、次第に放火事件とグラフティアートの関連性に気づく…。

泉水と春、兄弟なんだけどあんまり似てない。その秘密は過去に隠されていた。お母さんがレイプ被害に遭い、それで生まれたのが春…お父さんが違ったとは…。
全部受け入れて、春を生むことを後押ししたお父さんの優しさ、懐の広さもすごいし、重すぎるものを背負わされて生まれてきた春も不憫でならない。
思い返せば、クラスの女子がレイプされそうになってたのを止めた春、あれは女を襲う男を許せない・でも女自体には興味がない っていう、実の父親とは相反する人間に育ったことを示唆していたのか…。

顛末としては、グラフティアートを描いて放火事件を起こしていたのは春。アートを解読して分かるメッセージは兄である泉水に向けたもの、いわば泉水宛のSOSだった。今までずっと、春にとっての大事な場面にはいつも泉水がそばにいた。
父親は違うけど、目には見えないけど、確かにそこには兄弟の絆がある。

最後の"2階から春が落ちてきた"にはいろんな解釈があるみたいだけど、個人的に春は着地できると確信を持って飛んだと思うし、兄貴の懐へ飛び込む って意味もあったかも。だから、あの後もお互いに顔を見合わせて、ヘヘッて笑っててほしいな。