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紳士泥棒/大ゴールデン作戦のtakのレビュー・感想・評価

3.3
映画に夢中になり始めた中坊の頃。土曜日の真っ昼間に「ピンクパンサー」シリーズのピーター・セラーズ主演作が放送されると新聞の番組表で見かけた僕は、その時間にテレビの前に陣取った。

服役中の怪盗"キツネ"が、シャバにいる母と妹の様子を聞いて心配になり脱獄。家族の生活を立て直す為に、他の泥棒の片棒を担いで一儲けしようと企む。何これ、面白い😆。オープニングクレジットは「ピンクパンサー」みたいにキツネが警察に追い回されるアニメーション。おしゃれな音楽。映画監督に扮して村人を騙す主人公の面白さ。巻き込まれて騙されるハリウッドスター。

子供心に強く印象に残ったけれど、タイトルはすぐに忘れてしまった。その時の印象が忘れられなくて、学生時代にキネマ旬報の日本公開映画の記録が載った本やら、ガイド本「世界映画名作全史」(現代教養文庫)巻末についてる公開年と外国映画のリストやらを見たけれど、この映画だという確証が持てないまま大人になった。

2000年前後に再びこの映画にめぐり会う。WOWOWでビットリオ・デ・シーカ監督の特集かなんかが組まれたんだと思う。多分。へぇー「ひまわり」しか観たことないよなーと思って番組表を見ていたら発見…!😳これや!原題After The Fox。間違いない。監督はデ・シーカ、脚本は大好きなニール・サイモン、音楽はバート・バカラックやん!えっ!?キャストも親父世代の大スタービクター・マチュア、後にボンドガールとなるブリット・エクランド。こんな布陣だったのか。迷わず録画して安心してしまったのか、いざと観ようと思ったら今度はそのテープが見つからない。最近になっていろいろ詰め込んでいた段ボール箱の隅っこから録画してたテープを発見。やたー!😆2022年9月、やっと再会(泣)。

改めて観ると、犯罪映画としては手際が悪くてカッコよくないし、キツネを追う警察もただ追いかけるばかり。映画撮影用トラックに装備された霧発生装置で煙幕を張って逃げるクライマックスの追いかけっこも、何が起こってるのか分かりづらいし、ビクター・マチュアも老いをネタにされてばかりで痛々しい。対して、当時セラーズの妻だったブリット・エクランドが女優に憧れるお気楽な妹をノリノリで演じているし、セラーズの変装七変化(バレバレなのが笑える)も見ていて楽しい。そして何よりも映画撮影をカモフラージュにして白昼堂々金塊を運ぼうという計画がいい。撮影機材をキツネ一味が盗む場面には、ビットリオ・デ・シーカ監督も登場。ロケ地に選ばれた寒村がお祭り気分で盛り上がる様子は、今も昔もエンターテイメントが庶民に愛されていることが嬉しくなる。

同じイタリア映画の「黄金の七人」の痛快さと比べたら、傑作と呼ぶには程遠いコメディ。だけど、騙し騙される展開や話術の面白さ、くどいギャグ、台詞に頼らない表現、前半と後半の呼応などなど、自分が映画を面白いと感じる要素がところどころに見られる。自分の映画ファンとしてのルーツに触れた気がした。羽佐間道夫の吹替じゃなかったのは残念だけど。

初見は1982年2月地上波にて。
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