ひろ

椿三十郎のひろのレビュー・感想・評価

椿三十郎(1962年製作の映画)
5.0
監督・黒澤明、脚本は黒澤明と菊島隆三、小国英雄の共同執筆、主演は三船敏郎で製作された1962年の日本映画

1961年の黒澤作品「用心棒」の続編的作品として製作された作品。“続編的”というのは、桑畑三十郎と椿三十郎は刀の数や着物からも同じキャラクターなのは間違いないんだけど、時代背景が食い違っていたりするので、正統な続編としては扱われていない。

文句なしに面白い。「用心棒」から続く「もうすぐ四十郎」の持ちネタも見事に決まっていて、相変わらず冴え渡る知略も健在だ。相手の懐に入るという戦法が同じだけど、それも「用心棒」を観ているから楽しめるというもの。弱い者をほっとけない三十郎がかっこよすぎる。

黒澤映画は主人公を魅力的に描くのはもちろんだが、弱者の描き方が巧みなのが面白い。この作品でも9人の若侍が、どうにも頼りないのが可笑しくて笑ってしまう。殺陣も本格的で、二回斬り殺すという黒澤映画の殺陣は、他の時代劇とは迫力が違う。最後の有名な決闘シーンは、後に真似されまくったほど。

三十郎役はもちろん三船敏郎。こんなに愛想が悪くて優しい侍もなかなかいないと思うが、このキャラクターをここまで魅力的にしたのは三船敏郎の力が大きいだろう。2007年に全く同じ脚本で織田裕二主演によりリメイクされたが、黒澤ファンに酷評され大コケしたことからも、三船敏郎の力の大きさがうかがえる。

敵方の主要人物・室戸を演じたのは、「用心棒」で洒落者ヤクザを演じた仲代達矢。前作とは正反対のいかにも侍といったキャラクターを完璧に演じていた。仲代達矢をはじめ、志村喬、土屋嘉男など、黒澤映画に欠かせない名俳優も出演している。

さらに、若侍として東映の若手スターだった加山雄三や田中邦衛が出演している。若手スターとはいえ、三船敏郎に比べたらヒヨッコ。2人が三十郎に殴られるシーンは、撮影を勝手に抜け出した2人を本気で怒って殴っているらしく、びびり方が面白いのでお見逃しなく。

ユーモアがあって、アクションもかっこよくて、脚本も面白い。音楽の使い方もうまいし、本当に黒澤映画は完成された芸術だと思う。世界一かっこいい「あばよ」も聞けるし、「用心棒」を観てから「椿三十郎」も観てもらいたい。
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