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キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド-のHKのレビュー・感想・評価

4.2
『ローサは密告された』などのブリランテ・メンドーサ監督によるフィリピン映画。キャストはココ・マルティン、フリオ・ディアス、マリア・イサベル・ロペスなどなど

フィリピンマニラの貧民街で、喧騒に囲まれながらも所帯を持ち大黒柱として家族を支えようと頑張る若々しい警察学校の生徒が、知り合いで麻薬の孫上をしている友達の手伝いに加担するように誘われる。渋々付き合うのだが、上司たちのバンに乗るとそこで待っていたのは地獄であった。

フィリピン映画を初めて見ましたが、この映画は後味の悪さ、そして徹底したリアリズム描写がとても良かったと思います。前半の穏やかな雰囲気から暗転する後半の展開が素晴らしい。

前半は、フィリピンマニラの昼の顔を、当時の情勢などを反映させながらも、あくまで結婚式など主人公周りの温かい情景のみで語る。しかし、薬物密売の様子など、僅かながらフィリピンの抱える闇というものを淡いタッチで描写する。

ここから主人公のぺピンをひたすら手持ちカメラのようなもので陰影を強調させながら彼の内面の葛藤というものを浮き彫りにするのが素晴らしい。車内での撮影の仕方はダルデンヌ兄弟を意識しているのかな?アクションがあまりないにも関わらず目を離せない展開であった。

そしてとある地下室に女性が幽閉されてから、彼の助けるのか助けないのかの道徳的葛藤がクライマックスを迎える。しかしあくまでリアリズムに忠実にしており、そこでの描き方も主人公にカメラを合わせていく見せ方でとても良かったと思いますよ。

そして極めつけは台詞過剰なオーバーアクトやドラマチックな表現は抑えながらも、物凄い生々しく見せるマドンナの○○描写がえぐかったですね。ひたすらそれまでに拷問したうえで生きたまま○○するのはすさまじい。

そして一番凍り付いたのは、○○した後に、そのパーツを一つ一つ、まるで慣れた手つきみたいに道端にぼとっと捨てる描写が凄まじかったですね。まさにあそこでの捨て方は缶コーヒーか缶ビールをポイ捨てするように活写している。あそこでのリアリズムが凄まじいかったですね。

そして全てが終わってからの主人公の、まるで魂が抜けて抜け殻になったかのようなこわばった表情が印象に残る。その後に日常に帰還したとしてもどうしてもあのトラウマ的光景がフラッシュバックしてもう意識はあそこから帰ってくることが出来ないであろうあの表情も素晴らしい。

後年の園子温の『冷たい熱帯魚』にも通ずる、人間が一番怖い。フィリピンの闇の深さを、あくまでリアリズムに徹しながら映像的な表現のみで描くのがとても良いと思いました。

私だってあんな現場に巻き込まれれれば、当時の警察とかを信用することが出来なくなるほど、しかしその場では何もすることのできない無力感を主人公の表情や動作を通して共感してしまう。これぞトリュフォーが提唱する映画的リアリズムだと思いますよ。

実際のフィリピンの実情を描いているかは知りませんが、とにかくショッキング且つ個人的には品のいいと感じた映像表現を体感することができたのでとても面白かったです。見れて良かったと思います。

フィリピン映画とか東南アジア系の映画もっと見てみたいですね。最近だとマレーシアの映画とかも見ましたけど、タイの映画とかももっと見てみたいですね。
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