もとまち

トイレの花子さんのもとまちのレビュー・感想・評価

トイレの花子さん(1995年製作の映画)
3.7
こんなタイトルではあるが花子さんは声のみでしか登場せず、代わりに襲い掛かってくるのはなんと幼女連続殺人鬼!...という異色のジュヴナイル・ホラー。リアルに悪意と殺意を持った人間が子供たちをつけ狙うさまは、下手なガキ向けお化けホラーよりも遥かにおそろしい。鎌でギギギと鏡を引っ掻いたり、発狂しながらドアを破壊したりと、いちいち現実的な暴力の質感に満ちた描写の数々が怖すぎる。殺人鬼を演じる緋田康人のルックがまんま『M(1931)』のピーター・ローレなのだが、それ以外にも本作は全体的に『M』を意識した描写が多い。子供たちを俯瞰で写したあと、用水路に浮かぶ帽子をゆっくりと捉える無気味なオープニング・ショットからして既にそう。子供たちのイジメを通して群衆の単純さ、残酷さ、冷淡さを丁寧に描いた脚本もそんな感じで、子供の集団が無音でこちらをジッと見つめてくる異様なショットは、『M』の民衆が殺人鬼を見つめるシーンとそっくりである。その後の、みんなで裁判を開いて私刑を加えるくだりは痛々しくて見ていられない。所々で紡がれる主人公の少年少女の淡い恋愛模様も気恥ずかしいけど素敵。特に黒板を使った筆談シーンの美しさは見事。チョークと黒板の擦れる音、教室へと差し込むあたたかな夕暮れの陽明かり、そっと手渡されるキーホルダー。ロマンチック過ぎる。ただ、二人が堂々たるキスを披露するラストはちょっと行き過ぎだなーと思う。
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