さわだにわか

からたち日記のさわだにわかのレビュー・感想・評価

からたち日記(1959年製作の映画)
3.8
年季奉公に出されて芸者屋に売られて戦争成金の山形勲に買い上げられて戦時下の総動員体制で女工として独立を図ったら芸者芸者と同僚女工から陰口を叩かれてそいつらの鼻を明かすために女工の指導をしていた兵隊さん田村高廣と密会を重ねてたら出陣しちゃって仕事なくなっちゃって密会は山形勲にバレちゃって山形勲の顔色を伺う芸者屋からも締め出し食らっちゃって芸者仲間を頼って行ったら空襲浴びちゃって、ちゃって、ちゃって…と不幸のジェットコースター芸者一代記。

これでも物語の半分ぐらいなのだがそれからもずっと不幸が続く。といって湿っぽくなることもなく、そのへん高千穂ひづるの明るさのたまものなのだが、哀愁も漂わせつつ戦前戦中戦後を逞しく生き抜いた元芸者の、その中で誰かの所有物からひとりの人間として立ち上がっていく様を描いた魂のロードムービー的な人間賛歌・女性賛歌の観強し。

いよいよ行き場を失って迷い込んだ木立で元芸者がかつて彼女を所有した男たちの命令の声を内面の声として聞く、みたいな場面は昨今のフェミニズムブームに乗せて解釈することもできるので結構現代的である。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と併せて観ても面白いかもしれない。芸者屋の日常を軽妙なタッチで掬い取るあたり、イイっすね。
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