かなり悪いオヤジ

クジラの島の少女のかなり悪いオヤジのレビュー・感想・評価

クジラの島の少女(2002年製作の映画)
3.6
ニュージーランド観光協会やグリーンピース、そしてフェミニズム協会からも援助金をもらえそうな、技ありの一本。マオリ族の族長一家に望まれない子として生まれた女の子の物語は、LGBTQ差別に反対する団体からも資金をもらえそうな作品なのである。

昔々この島にクジラにまたがってやって来たご先祖パイケアの伝説にちなんで、同じ名前をつけられた女の子(ケイシャ・キャッスル=ヒューズ)。現族長のコロは男の赤ん坊を待望していたものの、双子の弟と母親はパイが産まれた時に亡くなってしまう。その時のイザコザで島を出ていってしまった父さんを若き日のクリフ・カーティスが演じている。族長になるための訓練をコロから受ける気満々のパイだが、女の子というだけでタイアハ(棒術)の棒にもさわらせてもらえない。

おそらく少数民族を保護するという名目で、アラスカのエスキモーのように、鯨漁をしない代わりに生きていくのに必要な補助金をニュージーランド政府からもらっているのだろう。パイのデブったおじさんをはじめ、若い衆は昼まっからビリヤードをしたり酒を飲んだりで、マオリとしての誇りをすっかり失った自堕落な生活を送っている。そんな中、民族の魂を後世に伝えるべく、現族長のコロとその孫娘パイだけが至極マジなのだ。

牙を抜かれた民族の魂に火をつけるのが、鯨に選ばれし男の子ではなく女の子というところがミソ。父さんは、アーティストのようなことをしているオーストラリアにパイを連れて帰ろうとするものの、鯨の声に引き留められたパイは「おじいちゃんと暮らしたい」と健気にもまた村に戻るのだ。そんな孫娘が可愛くてしょうがないコロだったが、族長としての使命があるゆえわざとパイに冷たくあたるのである。まさにハイジとおじいさんを彷彿とさせる展開なのだ。

鯨たちが浜辺に打ち上げられたシーンなどは、一体どのように撮ったのだろう。まさか環境保護に反するような撮影はしなかったと思うのだが...怒り狂ったオームをナウシカが身を呈して押し止めたように、パイは鯨たちを海に戻すことに見事成功する。スピリチュアル!!ジブリのアニメを相当研究して作った思われるストーリーは、日本人親子の皆さんがご覧になってもきっと心に刺さることだろう。