半兵衛

人妻コレクターの半兵衛のレビュー・感想・評価

人妻コレクター(1985年製作の映画)
3.5
ポルノ映画でよくある「無理矢理やっているうちにそれが快感になっていく」という流れが滅茶苦茶ベタだし、主人公のタクシードライバーに犯された女が性愛に目覚めて主人公の再来を待ち望んでいるストーリーも陳腐なので一歩引いた感覚で映画を見ていることに。お話も突っ込みどころ満載だし、キャラクターも一般常識が一切なくてみな思い込んだら犯罪に該当しようがとことんまでやるというクレイジーなキャラばかりと常識的な人なら途中で観るのを止めてもおかしくないはず。

それでも全編に流れるじゃがたらのパンクな音楽ががむしゃらに暴行を繰り返す主人公の狂騒ぶりにぴったりで、そんな映像と音楽の相乗効果により当時のバブル社会への何か解らない苛立ちみたいなものが浮かび上がりいつしか日常への苛立ちを持つ自分に重ね合わせて主人公の焦燥や怒りが肌で伝わってくるような感覚がもたらされ不思議と最後まで鑑賞してしまった。これぞ佐藤寿保監督ならではのサイバー・パンク・ムービーのマジック。

そしてラスト数分の狂った展開をゲリラ撮影でやってのける奇跡というか無茶苦茶さに口があんぐり、確かにこの場面だけでも映画史に残る名シーンだけれどもコンプライアンス云々ではなく都会のど真ん中でこんなことしたら駄目だろう。あと犯した女性を裸にして白昼堂々道路のど真ん中に捨てる場面もよく撮影できたな。

エンディングは心に響かないけれど、佐藤寿保特有の「狂気は伝染してどんどん広まっていくよ」というメッセージは嫌になるくらい理解できる。それでも冒頭で流れた音楽が再び流れ、画面に狂気が充満する最後の場面のパンキッシュさには息を呑んだ。

それにしても主人公がタクシー運転手、かつて犯した女との再会、彼らとのドラマに流れる歌と同年製作されたロマンポルノ『ラブホテル』と似通った部分が多いのに監督と脚本の違いでこうも別物に仕上がるのかと感心する。

あとリマスター版で鑑賞すると映像の美しさが理解できて、ピンクという最低限の製作状況のなかで都会や登場人物の闇を冷たく切り取る撮影担当の斉藤幸一の卓抜した手腕に気づかされる。特に終盤電気の点いていない部屋で小川美那子が自分のエロ写真を燃やしその火が顔を赤く照らし彼女の決意と狂気を表現する場面や、ラストタクシーに乗る主人公の顔の横をチラチラと点灯するネオンのライトが彼の決意を示唆する場面の素晴らしさ!

泥まみれになりながら暴行シーンにのぞんだ小川美那子の体当たり演技も最高。
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