バテラ

未知への飛行のバテラのレビュー・感想・評価

未知への飛行(1964年製作の映画)
4.5
米ソ冷戦時に水爆を積んだアメリカの爆撃機の編隊が、機械の故障から誤った指令を受けてしまい、モスクワに核攻撃に向かってしまう…というポリティカルスリラー。

特筆すべきは映画の殆どの場面が、空軍司令部、ペンタゴン、大統領地下壕、爆撃機のコクピットという密室で進む。映画の内容から、軍の協力が得られなかったらしく、戦闘機などのシーンは、記録映像を用いていて、必要最低限になっている。

制約が多い中での制作だっただろうに、シドニー・ルメット監督の手腕で、それを逆手に取ったように映画は終始緊張感に満ちているし、まるでその場にいる様な感覚にさえなる。状況は空軍司令部のレーダーで映し出されるのだが、無機質に淡々と爆撃機の光点はモスクワに進み続け、タイムリミットは迫る。ソ連軍との空戦もレーダー画面で表現されており、下手な特撮やCGより緊迫感も迫力もあり見事だ。

俳優陣の演技も見事で、ヘンリー・フォンダ演じる米大統領を中心に、特に表情や目での演技が凄まじく緊張感を伝えてくる。密室で繰り返される会話、対応策、ソ連との交渉、じんわりと冷や汗が出てくる様だ。

そして終盤で大統領はある決断を下すのだが、あまりの事に言葉を失うほどだ。どうすれば良かったのか…答えは出そうにないし、機械のエラーとはいえ、結局のところ、相手を信じるのか、信じないのかという、非常に脆く、危うい土台の上に平和というものは、成り立っていると気付かされる。

冷戦は終わったとはいえ、近年はウクライナ戦争などで、再び核戦争の可能性は高まっているだろうし、この作品はまだ色褪せそうにない。間違いなく傑作だ。
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