Jeffrey

不良少年のJeffreyのレビュー・感想・評価

不良少年(1961年製作の映画)
3.8
「不良少年」

冒頭、銀座を走る一台の護送車。東京地検の一室、東京少年鑑別所、喧嘩と復讐、やくざ的組織、真珠店強盗、学生襲来、オヤジ狩り、煙草、壁への頭突き。今、浅井と言う少年を軸に少年院の内部が浮き彫りになる…本作は一九六一年に新東宝配給で、羽仁進が脚本、監督した記録映画的手法による劇映画で、この度DVDを購入して初鑑賞したが面白い。本作は少年院内の生徒と先生の赤裸々な手記"飛べない翼"に基づき、優れた記録映画を多数世に送り続けた監督が初めて挑んだ劇映画で、あの黒澤明(用心棒)を抑えてキネマ旬報ベストテン第ー位に輝き、その名を映画史に刻みつけることになった名作と言うのは有名な話だ。

さて、物語は銀座を通るー台の輸送車。中には一人の少年がいる。彼は"俺は銀座歩いたことがない。輸送車の中から見ただけだ"と言う。少年の名前は浅井。輸送車は東京地検の門へと入っていく。浅井は仲間たちと真珠店で強盗を働いた罪でネリカン(練馬鑑別所)でその処分を待っている。ニ週間の退屈な鑑別所生活の中で、浅井は浅草で過ごした無為な生活を思い出している。そして浅井の予想以上の処分(特別少年院行き)が命じられてしまったのである…。

本作は冒頭に、銀座の街が写し出される。当時のファッションに身を包んだ男女が街を歩いている。そこにとある少年の声が鳴り響く。俺は銀座の街を歩いたことがない。輸送車の中から見ただ…と。そしてー台の輸送車が東京地検の門と入っていく。ここでタイトルロゴが出現する。カメラは手錠をはめられた少年を撮る。彼は警察に犯行の事実を聞かされている。彼は事実を認め。カメラは少年のクローズアップを撮る。少年は睨み付けるような怖い表情をする(ここで少年の頭の中の声が聞こえる)。

続いて、彼がまともかを判断する検査を受けている場面へと変わる。彼は別室の部屋のベッドに横になり、どうやら共犯者の男について不満を漏らしている。カットは変わり、真珠店の場面へと変わる。そこには白人の男女が品物を見ている。店の外にはスクーターで到着した先程の少年とその仲間が到着する。彼はスーツを試着して店内の中に入る。いきなり店員に何か白い粉のようなものを投げつけてショーケースの上にあった真珠箱を手に取り、外で待機していた仲間の原付に乗ってそそくさ逃げる。

続いて、鑑別所の中のシーンへと変わる(彼の独白がある)。こうして少年の回想と鑑別所の現実が交差していく…と簡単に説明するとこんな感じで、非常にドキュメンタリータッチな映画である。少しばかり台詞が聞き取りにくいのだがそこは許そう。少年が街中で手持ちナイフで指を自分で切ってその血を顔につける場面は印象的だ。それと鑑別所でニ階の部屋から柵のついた窓から糸を垂れ流して石鹸をつけて渡し合いしたりとかする場面、電車の中で女性の髪にライターで燃やそうとする場面、飯の中に虫を入れたりする意味不明なシーンもインパクトがある。またパンツいっちょでグラウンドを走らされたりうさぎ跳びしたり、坊主にさせられて雑巾がけをリズミカルにしたりする場面も凄い。

それと出来立てのまずいご飯をバケツに詰め込むショットや食べてるところを頭上ショットする場面も面白い。浅井が鑑別所の不良にリンチされる場面でコンクリートの壁に頭突きしろと言う場面も強烈だし、パンを大量に盗んで布団に並べて水を口に含みそれをパンに吹きかけ毛布をかける意味わからない行為(後にその意味の判明がある)をする少年も印象的。それにしてもこの映画の登場人物はあの野郎この野郎を連発する。

自分の部屋でタバコをいちから作って火を起こして吸うまでの下りも見ていて感心する。こういう風にやるのかと言う思いだ。それと長い黒い髪をとかす女性の描写も妖艶である。暗闇でのオヤジ狩りの描写もがあるのだが、それは監督の友人の出版社の編集者で、そこまでストーリーを聞かされてなくて腕時計を取られる場面はガチでとられたと思い込んだらしい。だからリアルな映像が撮れたんだなと思った。


この作品最も印象的だったのがクライマックスで、少年院を退院する主人公が降りてきた階段を振り返って、ありがとうございましたとお辞儀をして外に出るのだが、そこから長回しのカメラがずっと彼を追ってきて、看守の人が檻の鍵を開けて少年が外に出ていくのだが、そのままカメラは少年院内に残り、少年だけが外に出る場面をひたすらとる。なので実質は檻からのフレーム内から外の少年を捉えているため、我々観客は少年がまだ檻の中にいる錯覚を持つのだ。この演出は非常に面白いなと思った。
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