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時をかける少女のmagic227のネタバレレビュー・内容・結末

時をかける少女(2010年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

初めて「時をかける少女」という物語に出会ったのは1972年ですから、もう40年も前になります。当時放送されていた「NHK少年ドラマシリーズ」の記念すべき第一作が「タイムトラベラー」つまり、筒井康隆の「時をかける少女」だったのです。そして1983年に大林宣彦監督、原田知世主演の映画版「時をかける少女」が創られ、それ以降はもう数えきれないほど何度も映像化されています。その最新版が仲里依紗主演の本作という事になる訳です。 主人公は原作のヒロインである芳山和子の娘“あかり” 交通事故で意識不明となった母・和子の秘められた想いを知り、母の代わりに時を超えてある人物に会いに行くというのがストーリーなのですが、劇場に行って驚いたのはとにかく同い年くらいの中年男性が多いこと多いこと!僕のような「タイムトラベラー」世代はもちろん、原田知世版の世代も今はもう立派な父親の年齢。つまり“あかり”というキャラクターは、そういう観客にとって“初恋のひと”の娘みたいなものなのです。 そして“あかり”を演じた仲里依紗がとにかく見事でした。本作は基本的に、大林宣彦版の続編になっていますが、実は主演の仲里依紗は2006年に公開された細田守監督のアニメ版で主人公の声を当てており「時をかける少女」の主人公を二度務める事になります。本来ならこのキャスティングは避けるのが本当でしょう。しかし、谷口正晃監督は評価の高いアニメ版と比較される事を覚悟で、敢えてこのキャスティングを選択しました。そのギャンブルが見事に成功したのは、アニメ版のファンから否定的な声が殆ど出なかった事からもあきらかでしょう。明るくて、ポジティブで、ちょっと生意気で、とても健気な2010年版の“時をかける少女” 仲里依紗は見事に新たなヒロイン像を創り上げました。
さて、僕にとって「時をかける少女」とは“切なさと想いの物語”です。決して時間を行ったり来たりしながら事件を解決する楽しくてワクワクする物語ではありません。なぜなら、そこには「歴史を変えてはいけない」という冒す事の出来ないルールがあり、ヒロインもそのルールに縛られずにはいられないからです。だから彼女はどんなに頑張っても、決してハッピーエンドを迎える事は出来ません。そして観客も、そのルールを知っているからこそ、ヒロインがより健気に見え、その想いを察すると胸が切なくなるのです。本作で言えば、あかりと涼太は決して結ばれない事を、昔からの「時をかける少女」ファンは最初から知っています。それでもあかりが若さの限り、想いの限り、頑張るからこそ彼女は健気に見え、観客の胸は切なさでいっぱいになるのです。そして、タイムトラベラーのルールに想いを妨げられた彼女は最後に記憶を消されますが、「記憶は消えても想いは消えない」のが昔から「時をかける少女」の決まり事です。その想いがどんな形であかりの中に残るかは映画を見て確かめて下さい。そして、この物語は40年前、和子の中に消えずに残った想いに決着をつける物語でもあります。こちらも是非、映画を見て確認して欲しいと思います。 1983年、大林宣彦版のラストは、あの松任谷由実の主題歌で幕を閉じました。そして2010年の本作はいきものがかりがカバーしたあの主題歌で幕を開けます。緑の木々を背景に軽やかに駆けて行く仲里依紗の姿は新しいヒロインの誕生を告げて、とても爽やかでした。
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