note

天国の門のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

天国の門(1980年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

西部開拓時代のワイオミング。自由の国アメリカに希望を求めて次々と入植してくる東欧系移民。しかし、先住民にとって、移民達は牛泥棒と無政府主義者であり、彼らの生活の破壊者でしかなかった。牧場主は125名の東欧移民の処刑リストを作り、殺し屋を雇う。西部開拓史上、最大の悲劇「ジョンソン郡戦争」が勃発する…。

アカデミー賞受賞作「ディア・ハンター」で名をあげたマイケル・チミノ監督が、巨額の製作費を投じてアメリカ建国史の汚点と呼ばれるジョンソン郡戦争に挑戦した一大スペクタクル超大作。

牧場主たちが勢力を拡大してきた開拓移民たちを暴力で排除しようとしていたとき、保安官ジム・エイブリルはジョンソン郡に住む開拓民たちへ避難を勧める。
しかし、折角手に入れた土地を手放す者はなく、やがて虐殺の幕が切って落とされる。

移民が移民を憎み、殺し合うという自由の国そのものを否定したような事件の題材ゆえか、アメリカ本国では一大バッシングとなり、製作会社ユナイトは倒産するなど、前作の栄光から一転してチミノ監督にとっては「地獄の門」となったこの作品。

題材が問題だっただけで、作品としては決してつまらない訳ではない。
なぜなら絶賛された「ディア・ハンター」と物語の骨子は同じだからだ。
明るい未来を期待する者に訪れる戦争という挫折。
その渦の中で男2人の友情が描かれ、そのどちらかが悲劇的な死を迎える。
それがマイケル・チミノ監督作品の多くに共通する作風だ。

冒頭の1870年ハーバード大学卒業式での長いシークエンスは、前途洋々たる未来を感じさせる。
そこから一瞬で20年が経過する。
先ほどまで笑顔に溢れていた主人公ジムが、すっかりやさぐれている。
一体、20年の間に何があったのか?
人生の荒波に揉まれたジムは保安官の仕事の合間に移民の娼婦エラに会いにゆく。
移民たちがダンスホールでバイオリンに合わせて踊る姿が楽しそうだ。
懸命に生きる人々を殺そうとするとは…。

相思相愛のように見えるジムとエラに、牧場主が雇った殺し屋ネイトが恋敵として現れる。
保安官と殺し屋という正反対の2人に、エラを巡る恋の鞘当ての中で、奇妙な友情が生まれてゆく。
2人の想いは同じで、エラを逃して守りたいのだ。
ネイトはエラに求婚し、身内として牧場主たちから守ろうとするが、保安官のジムは立場上、エラ1人だけを守れない。
エラの気持ちがジムから離れた時、移民を守ろうとしたことを裏切り行為とした刺客がネイトを殺してしまう。
その勢いに乗って、遂に殺し屋たちと移民との戦争が始まる…。

スペクタクルな戦闘シーンの迫力には息を呑む。
三時間半超の作品は、物語の流れと直接の関係が薄い部分も時々あり、無駄に時間をとっていると感じることもある。
構成が必ずしも良いとは言えない。

だが、当時の移民たちの辛酸と憎悪を織り込んだ内容は重厚で、単に無法者をやっつける西部劇の範疇を上回る。
戦闘場面には迫力があるだけでなく、残酷であり、悲しみがある。
それまでに登場した人物が生きるために命懸けで闘う。
無駄に思われたシーンの数々はこのためにある。
人間一人一人の感情が戦場に渦巻き、何故移民同士で争わなければならないのかと、切なくなる。

ラストシーンで、争いが終わり生き残ったジムは船上で妻らしき女性と共に居る。
ジムは全く新しい人生を歩んでいて、過去の後悔を心に秘めながら今を生きている。
エラに結婚を申し込んだネイトと異なり、ジムはエラに結婚を申し込まず、一緒に土地を離れようとだけ言ったのは、元々妻がいたためなのか。
長い作品の割には主要な登場人物に説明不足な部分があるが、映像から推し量るべきだろう。
人々の生命を救えなかったジムの喪失感とともに映画は終わる。

時間も長く重い内容のため、軽い気持ちで見られる作品ではないが、それでも見る価値は十分にある。
莫大な予算をかけて町のセット、本物の蒸気機関車、衣装や調度品に至るまで完璧に再現されている。
そして雄大な大自然のロケーションに圧倒され、当時の社会をそのまま垣間見るような錯覚を覚える。
ヴィルモス・ジグモンド撮影監督の美しい映像とデイヴィッド・マンスフィールドのシンプルだが奥深い音楽が心の琴線に触れる。

映像美に関しては映画史上最高の一つと言っていい。
1カット1カットの構図が練られており、セットに差し込む光や空気の動きまで計算されつくした映像は、どの場面を切り取っても、まるで絵画を見ているようだ。

一度見ただけでは良さは分からない。
長さに圧倒され、退屈するだけだ。
しかし、見るたびに味が深まり、発見がある。
「アメリカ最後の映像作家」と言われたマイケル・チミノ監督の渾身の映像詩だ。
もう、これほどの大作は2度とお目にかかれない。
note

note