kuu

蛇イチゴのkuuのレビュー・感想・評価

蛇イチゴ(2003年製作の映画)
3.5
『蛇いちご』
製作年 2003年。上映時間 108分。
是枝裕和が初プロデュースする『是枝プロジェクト』の第2弾。
28才の新鋭、西川美和のオリジナル脚本に是枝自らが惚れ込んで映画化が実現した。
出演は本作が映画初主演となるお笑いコンビ“雨上がり決死隊”の宮迫博之。
共演につみきみほ。

明智家の娘・倫子は、幼い頃から真面目で優秀。現在は小学校で教師をしており、同僚で恋人の鎌田との結婚を控えている。
そんな彼女は働き者の父、優しい母、明るい祖父に囲まれ、平穏な毎日を過ごしていた。
だがある日、痴呆の進んだ祖父が亡くなり、その葬式に10年間も行方知れずだった長男・周治が姿を現わし、それを機に一家の和やかな雰囲気が一変する。
やがて、世渡り上手の周治は、家族に内緒で多額の借金をしていた父の窮地を救い、家に迎えられるのだが、倫子だけはお調子者の兄をどうしても受け入れることができずにいた。

西川美和の監督デビュー作の今作品は、深田晃司監督の『歓待』(2010年)や黒沢清監督の『トウキョウソナタ』(2008年)てな感じの系統を加えたような作品でした。
この家族ドラマでは、保守的な日本の家庭が、老人性痴ほう症の爺ちゃん、家父長的な父ちゃん、自己犠牲的な母ちゃん、愛想のいい娘ちゅう、時代遅れではあるがコミカルに描かれていた。
母ちゃんが心臓発作で爺ちゃんを見捨て、爺ちゃんの葬儀で父親の莫大な借金が明らかになり、見捨てられた息子から慈悲深い天使(というよりエセ弁護士)の手が金銭問題の解決に差し伸べられたとき、彼らはどうすべきか?って流れで物語は進む。
狡猾で機転の利く息子を演じるのが、宮迫ですッ!の笑い芸人からYouTuberに転じた(いまは此処しかやれんのやろけど)宮迫博之やから、映画はシリアスになりすぎない。
西川監督はカメラと登場人物の間に距離を置き、観客がコミカルな状況を冷静に観察できるよう、長回しのロングショットを採用していた。
そのため、娘の疑念が理解しやすくなる。
生物学的に血のつながりのある兄が、自分の家族を欺くただの薄情な侵入者なのではないかという疑念。
今作品がいかに表面的にはコミカルであっても、監督のテーマ的関心は、今作品が装っているほど軽薄ではない。
もろくも崩れ去った秘密の幕が解かれたとき、残るのは偽善と喧しい男性的野郎のくだらないプライドだけ。
現代の家庭では、生物学的な関係さえも信頼できないものに終わる。
心優しい娘は、そして、一般的な我々は、崩壊した家族の価値観に、誠実さを失わずにどう対応すればいいんやろか?
西川監督は、この思慮深い映画に意外な結末を与えてました。
今作品に対する最も一般的な形容はダーク・コメディかな。
機能不全に陥った中流家庭の崩壊を描いているんやしそこに多くの闇があるのは明らかだで、これをコメディと呼ぶのはさらに議論が必要やとは思いますが。  
家族のほとんど全員が毎日互いに嘘をつき、ごまかし、隠し事をし、平静を装って秘密を隠していることを発見しても笑えない。 
職を失いながらも、すべてが以前のようにあるかのように装っている父ちゃんちゅう、すでに掘り下げられているトピックは、父ちゃんが作った莫大な借金によってさらに拡大される。
その借金は、祖父の葬儀の席で、友人や家族、娘の恋人の前で公にされる。
これにより、一家が崩壊するだけでなく、このメンバーで唯一まともで倫理的な人間である娘とそのボーイフレンドとの関係も破綻する。
また、このことをきっかけに、勘当された息子で大詐欺師のスジが、皮肉にも一家の救世主として一家に突然戻ってくる。
実際、事態はあまりに深く、あまりに間違っており、この家族を破綻から救えるものは何もない。 監督の最も印象的な動きは、時折使われるスローモーションと壊れた音の組み合わせ。
西川監督は、感情的な緊張の瞬間を強調するためにこれを使い良い効果を得ている。
これに加えて、サウンドトラックもよかった。
押し並べて面白く視聴しました。
kuu

kuu