荒野の狼

孫文の義士団の荒野の狼のレビュー・感想・評価

孫文の義士団(2009年製作の映画)
5.0
神戸市舞子の孫文記念館を訪ねて、孫文に興味がわき本作を購入。139分の作品だが飽きることなく鑑賞。冒頭は1901年にヤン・チューウンが暗殺されるところから。ここから話は1905年に日本から香港に、革命の話し合いを1時間するために孫文が来るという話になる。孫文が清朝打倒のために画策していたのは史実だが、本作は孫文を迎えての秘密会合というメインのエピソードも含めてフィクションのようである。主な登場人物で歴史上の人物は陳少白(チェン・シャオバイ)のみで、孫文(チャン・ハンユーがそっくりにメイク)とも関係が深い革命家で新聞を発行していた人物である(冒頭、西太后もちらりと登場はする)。ところが本作では、新聞印刷会社の経営者は商人リー・ユータンで、彼の家族を中心とするドラマになっている。
もうひとりの主役級の扱いがドニー・イェン。前半は落ちた人物像だが、後半はそれまでの汚名をそそぐかのような活躍という点では、もうひとりの出演者レオン・ライとかぶってしまう点が設定上まずい。しかしアクションは鉄扇を使うレオン・ライのものと比べると、肉体を使った本物のアクション。特に、総合格闘家のカン・リーとの闘いは名勝負。この場面は、カン・リーが行く手をさえぎる野菜も人間も吹き飛ばしながら登場するところが出色で見ているほうでは恐怖を感じる出来。本物の格闘家なればこその迫力。しかし、闘い自体は本編よりも、CGもスローもなしのメイキングで二人が闘っている特典映像のほうがよく、彼らの突きや蹴りの速さは必見。映画では素肌をみせない二人だがドニーは筋骨隆々の上腕を、カン・リーはビルドアップされた上半身がメイキングではみられる。カン・リーはヴァンダレイ・シウバとも好勝負をした一流の格闘家でレスリングの下地もあるのでスープレックスもできるのであるが、本作ではボディースラムのような投げを見せるのみで惜しい。本作ではバックスピンキックは見られるが、実戦でみせたカニバサミや踵落としなど、ドニー相手に見たかった思いは残る。総合系の技を見せるのはドニーの方で、変形のアキレス腱固めや十字固めを随所でリーに対して繰り出して反撃している。ドニーはマイクタイソンとも戦っているが、本物の格闘家と迫力ある戦いができるのはさすが。
彼らの迫力に劣らないのが暗殺団のボスのフー・ジュン。一対一の闘いがほとんどないのが残念だが、馬に乗って孫文を追い回す場面の登場シーンは、人間とも思えない迫力で、ドニーも簡単に吹っ飛ばす。メイキングを見ると、眉を剃り落とし、鼻を曲げて悪役の顔を作ったとのことで、レッドクリフでヒーロー趙雲を演じた俳優と同じ役者とは思えない出来。ただ設定は陳少白の元弟子にあたり、本人は西洋の白人を信じず、清朝を天が授けたものと信じており、無駄な殺人はしないなど、同情すべき一面ももったキャラクターになっている。
他に特筆すべきはバスケットボール選手のメンケ・バータルで211㎝の身長で、心優しい大男を好演。メイキングを見るまでわからなかったのは、撮影に使った香港の街並みがすべてセットであったということで、細かい部分まで、ほとんど本物の街を作ってしまったというのは、驚きである。
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