『赤い砂漠』
原題 Il deserto rosso.
製作年 1964年。上映時間 117分。
イタリアの名匠ミケランジェロ・アントニオーニの初のカラー作品で、1964年・第25回ベネチア国際映画祭で金獅子賞に輝いた心理ドラマイタリア・フランス合作。
アントニオーニ監督のミューズとして知られるモニカ・ビッティがジュリアーナ、イギリスの名優リチャード・ハリスがコラドを演じた。

無機質な工場が立ち並ぶ海辺の工業都市ラヴェンナ。夫や息子と3人でこの街に暮らすジュリアーナは、数年前の交通事故のショックから立ち直れず、精神的に不安定な日々が続いていた。
そんなある日、彼女は夫から友人コラドを紹介される。
ジュリアーナは自分と同じように孤独を抱えるコラドに惹かれ、次第に距離を縮めていくが。。。

余談から始めます。
完璧主義者のミケランジェロ・アントニオーニ。
彼は、自然の風景を描き、煙を黄色に染めて『荒涼感、死感を強める』ようにさせた今作品。
ジャン＝リュック・ゴダールとのインタビューで、工業化がジュリアナの心の分裂の一因であるという一般的な批評家のコンセンサスを否定してます。
彼は、自分の意図は、実際には、ジュリアナの脆弱な精神状態のために評価することができない、工業地帯の風景の美しさを賞賛することであったと語った。
また、ロシアの映画監督アンドレイ・タルコフスキーは、ミケランジェロ・アントニオーニがストーリーや分かりやすさを犠牲にして『絵画的な美学に酔いしれた』と考え、この映画のファンではなかったと云う。
それぞれの鬼才が語る今作品は好きか嫌いかのレベルを超えて、個人的には凄い映画でした。
ミケランジェロ・アントニオーニ監督にとって初めてのカラー映画であり、彼はそれを躊躇することはない。
ベルイマンの『叫びとささやき』(1972年)のように、白黒映画の鬼才が、モノクロームの白と黒の間のすべての波長で、感動と革新性を発揮できることを証明した作品であると思います。
非特異的な精神障害（夫に云わせれば『歯車が噛み合わない』）に陥った女性が、自然対工業主義の対立に苦しむ町を背景に、ますます葛藤の多い人生を歩んでいこうとする。
アントニオーニがモニカ・ヴィッティと撮った3本の映画«愛の不毛»三部作のように、性的テーマが目立つが、性的ちゅうのは『エロティック』でもなく、『ロマンチック』でもなく、あくまでも、ストレートにそのような意味です。
今作品は、男女（特に男性の登場人物）が、性的な魅力を本当の人間関係の代用として使うという機能不全をテーマにしている。
ちゅうわけで、一言で説明するのは難しい。
モニカが演じるジュリアナが夜中に恐ろしい不安発作を起こし、夫が最初は彼女を抱きしめて慰めようとするんやけど、すぐに逃げ場を失い、哀れな女性に性的な誘惑をし始める初期のシーンで、ほとんどすぐにそれを見ることができる。
これは、映画の後半、別の形でシナリオが繰り返されるときに注目すべき点やとおもいます。
ジュリアナの反応は見ていてゾクゾクしたかな。特に彼女の手を見ると、男性のアプローチに単に反発するだけでなく、おそらく親密さという概念と戦ってる彼女自身の深い葛藤が伝わってくるように、静かに体を歪めてる。
そして、その間、不穏な、しかし華麗な、自然が工業主義と戦い、負ける姿を見ることになる。
自然が煙突やサイロといった新しい "並木道 "に取って代わられるのを見ることができる。
しかし、ここが面白いとこ。
監督は、単に工場はクソちゅうバンパー・ステッカーみたいな精神論をド・頭に叩きつけるのではなく、これらの映像はそれなりに美しく、また、空を目指すラジオ塔の威厳ある映像も見せてくれます。
あれは何のためにあるの？　
ジュリアナは、塔の上の高いところにいる労働者に尋ねる。
星を聴くためさ
と男は嬉しそうに答える。
聞けるの？
とジュリアナが尋ねる。
もちろんです、でもここに登らなければなりませんよ。
彼女は笑って、そんなことはありえないというように首を横に振った。
こないして、アントニオーニ監督は、旧世界と新世界、あるいは自然VS科学、伝統対進歩の間の複雑な交差を私たちに描いてみせてます。
単純な答えはないやろな。
主人公のジュリアナ（おそらく人類そのものを表してんのかな）が、その緊張のあまり正気を失ってしまうかもしれないことを理解させるような複雑な絡み合い。
ほんと、凄いと単純な表現ながら感嘆な言葉の後、深く考えさせられる作品で面白かったです。

アントニオーニ初のカラー作品。

モニカ・ヴィッティが美しい。

交通事故によるショックで、頭がアレになった女性の日常を描く。

黒澤もそうだったが、モノクロがスタンダードだった映画作家が色彩を獲得すると、なんとまあカラフル。綺麗綺麗。

映像が断トツにいい。
ちと頭がアレな女性の話だったんで先日観た「夜」ほどは刺さらんかったが、でもめちゃ良かった。

アントニオーニ作品のミューズ、モニカ・ヴィッティを愛でる映画でもある。

こうなると、昔観てイマイチだった「欲望」もまた観たくなった。