トムヤムクン

さすらいのトムヤムクンのレビュー・感想・評価

さすらい(1957年製作の映画)
5.0
ドゥルーズの『シネマ』を読んどるので、取り上げられてる監督の作品を観ていこうと思います。

なかなかにエモいピアノや割に真っ当な恋愛映画らしく、ある意味アントニオーニらしくはない作品なんだろうなと思いはしたけど、故郷喪失という個人的に好きなテーマもあって、面白かったです。
体を締め付けるベルト、土地に根ざした畑や畑から採られるサトウキビを使う製糖工場など留めるものは失われて、雨や川、船乗り、最後には空港など、流動するものに取って代わられていく。愛も永遠ではなく失われてしまう… さすらいの中で出会った女たちは、ガソスタの女をはじめ基本的にその場に留まる人々で、去っていくのは常に男の方。しかし心まで故郷=イルマを捨て去ることはできないが故に、彼は周囲の世界から乖離している印象。機械工として船に乗ったりガソスタ店員になったりと、彼は場所と結びついた村人型ではないようにみえるから、それだけ愛は不条理で人を苛み続ける…
ストーリーやキャラクターの内面をダラダラ語ってしまったけど、ミドルからロンドショット主体のモノクロ映像も圧倒的に素晴らしい。寂れて殺風景なはずの北イタリアの田舎の景色がこうも美しいとは。男がややカメラ目線でイルマとの馴れ初めを語るところ、テオの『旅芸人の記録』に影響を与えたのかもしらん。
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