緑雨

ベニスに死すの緑雨のレビュー・感想・評価

ベニスに死す(1971年製作の映画)
3.8
芸術に人生を捧げ、己れの限界を悟り絶望に至った男は、静養地で少年の美と若さに遭遇し、羨望と躊躇いを抱えたまま熱風にあてられて死んでいく。なんと残酷な生き様、そして死に様なのだろう。

その残酷さをある意味浮かび上がらせる、余裕たっぷりの画面の数々。オープニングの入港シーン、浮かび上がる客船と幻想的な干潟、薄紅色の空と海。ホテルのラウンジやビーチで、たっぷりと時間をかけてパンしながら人々を捉えていくカメラワーク。常に目に留まるのは、セーラー服姿、或いは水着姿の少年タッジオ。いずれのシーンにおいてもマーラーのアダージェットが扇情的に流れている。

イノセントに挑発してくるかのような少年に精神を掻き乱されていくダーク・ボガードの表情や佇まいの一つ一つが味わい深い。「荷物が戻るまでベニスを動かんぞ」といきり立ちながら、ついつい顔がにやける。部屋の窓からタッジオを見つけて、手を振らんとして躊躇う。そして道化のような化粧を施して死を迎えるのだ。
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