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断絶のnetfilmsのレビュー・感想・評価

断絶(1971年製作の映画)
4.2
 夜の帳に群がるようにストリートに集まった群衆はけたたましいエンジン音に魅せられ、クラシック・カーのボディをじっと見つめている。整備工がボンネットを開けて点検を終えると、夜の公道を走るレースが幕を開ける。深夜の路上レースで、うまいこと賭け金をせしめたドライバー(ジェームズ・テイラー)と相棒の整備工(デニス・ウィルソン)は翌朝、上機嫌でロサンゼルスを飛びだし、フリーウェイを南東に進んだ。彼らはちょっとしたエンジン音の異常も聞き逃さず、今より燃費の遥かに悪いアメ車は定期的にガソリン・スタンドに入った。彼らの改造車はどこに行っても人目を引いた。ドライバーと整備工とは互いにあまり言葉を発さず、移動以外の時間はいつも別行動を取っていたが、2人が昼食から戻ると、後部座席には見知らぬ少女(ローリー・バード)が乗っていた。次の日、一行は単調なハイウェイで横付けした明るいオレンジ色のポンティアGTOにあたりを付けた。運転している男は、いかにも癖の強そうな自由人でGTO(ウォーレン・オーツ)としか名乗らない。

 いわゆるB級西部劇の職人であったモンテ・ヘルマンに上層部は『イージー・ライダー』の二番煎じを期待して声を掛けたが、完成した映画は『イージー・ライダー』とはまったく似ても似つかない代物となった。今作にはまともなアクションはもちろん、明確な筋もなく、ライバルのGTOとのレースは終盤に用意されるものの筋書きのようなものはほとんどない。目的地のワシントンDCへと2人がひたすら流浪する映画である。その意味で今作はヘルマンがそれまで撮った西部劇と何ら変わりない。移動の途中でちゃっかり後部座席に座った少女を2人が咎めようとしない。そればかりか助手席に座る男の瞳は車窓からのアメリカの風景をただ黙ってじっと見つめるだけだ。ここにはロード・ムーヴィーの快楽もほとんどない。ニュー・メキシコからオクラホマ、アーカンソーを越えてテネシーへ。1日中レースのことしか頭にない青年2人は、自分たちの親世代のGTOを何とか出し抜いてやろうとその走りをつぶさに見つめる。

 勝つ時もあれば、負ける時もある。人生とはそんなものだ。ヴェトナム戦争時代の若者であるドライバーと整備工と、第二次世界大戦で従軍した戦前世代とでは思想もライフスタイルも何もかもが違う。デカい図体のGTOポンティアックを誇示せんとするGTO。物質消費社会へ抗おうととシボレーを整備しながら大事に乗りこなす若者たちは、既に時代遅れとなりそうなウォーレン・オーツの背中を見つめている。だが彼らの静かな緊張感をはらんだ移動にもいつかは終わりが来る。住む家を持たずに、流浪し続ける3人の男とその背中を見つめた少女の瞳。ヒッチハイクをしてまで己の力を誇示しようとするGTOは助手席に座る客人たちといつもディスコミュニケーションだが、シボレーの車内に座った3人の若者もどこか空虚で無機質に映る。スティーブン・スピルバーグの『激突』やドン・シーゲルの『ダーティ・ハリー』とほとんど同時代の物語は、おそらくこの時代、最も地味ではあるがひたすら胸に迫る。フレームの中の音はやがて止まり、フィルムは焼けただれて消え落ちるが、今作の価値は永遠に色褪せない。20日に91歳で亡くなったモンテ・ヘルマン氏に心よりお悔やみ申し上げます。
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