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蝉しぐれのkuuのレビュー・感想・評価

蝉しぐれ(2005年製作の映画)
3.6
『蝉しぐれ』
製作年2005年。上映時間131分。

市川染五郎(現十代目松本幸四郎)、木村佳乃主演の人情時代劇。
映画デビューであった佐津川愛美らが心に染み入るような切なさを感じさせる演技を魅せてくれる。
原作は人気時代小説家、藤沢周平の同名小説。
監督は黒土三男。
黒土は原作に惚れ込んで15年もの間、映画化を熱望、03年のTV版の脚本を経て、遂に監督として映画化を実現。
庶民や下級武士の哀歓を描いたら天下一品の藤沢小説は惚れるのわかる。
それに、今作品原作は青春時代小説のキラキラ星。

舞台は江戸時代の東北の小さな藩。15歳の文四郎は、下級武士の義父・助左衛門を手本に剣術と学問に励んでいたが、父が藩の世継ぎを巡る陰謀に巻き込まれて切腹を命じられ、文四郎の生活は激変する。

BS日テレの一月は名作時代劇にて昨夜鑑賞。

舞台、主人公の年齢設定、心理描写と風景描写、筋書きの芯となる苦難と陰謀、友情と淡い恋、剣と成長。
これらを組み合わせたバランスがエエし、テンポがよい(緩急の付け方のテンポですので悪しからず🙇‍♂️)。
藤沢周平の弱小藩を舞台にした小説群の中でも傑作の一つで、彼の代表作とも云われる原作を映画化した作品であるけど個人的にはよく描かれてた。
しかも無駄がないし。
時代モンになじみのない若年層なら、入門編的に、歴史もの時代ものをいろいろ読んだ熟年層なら温かな目で見れる作品やと思います。
それにしても日本人というのは、うだる夏空の蝉しぐれに包まれると、遠い少年・少女の日に自動的にトリップしてしまう仕様になってんのやなぁ。

今作品、
水墨画の凛とした雪景色、真っ白な雪にはまったく音がない。
緑まぶしき木々のさまざまな新緑の碧からの、茂った稲田。
落ち葉が一面に敷き詰められた秋の山道。
西山宗因の俳句、
さびしさに たへし跡ふむ
           落葉哉
を想うよな秋景色。
みたいな春夏秋冬の日本ならではの情景が美しかったです。
さらに、季節を感じさせるのは、蝉や蛙の声、吹きわたる風の音など、見るだけでなく聴く器官にもにも訴えてくる小説では描くの難しいとこを良く補ってました。
こないな季節の移り変わりを背景に、登場人物たちが静かにドラマの中を流れていきました。
まるで水面の流れに、枯れ葉が身をゆだねるように。
これが前半の展開でした。
これがまた後半になってくるとなると怒涛の流れのごとく荒れては突き進んでいく。
時代劇ならではの緊張感にみちた殺陣もありましたよ。
実際、刀で人を斬った場合(食肉の塊の日本刀試し斬りを見学したことがあるので)、音はしないというか、にぶい不気味な音がする。
そんな肉を斬り結ぶ鈍い音が妙にリアルで殺陣の生々しさを伝えてきました。
ただ、あくまでも耳に入る音は、であって、敵方10数名🆚2名(内一人ボンクラ)で、どう見てもヨレヨレで息あがってて、モサついとる主人公を、なかなか斬り掛からない敵共描写はご都合的は否めないかなは付け加えときます。
まぁ藤沢作品の『必死剣鳥刺し』とか『隠し剣 鬼の爪』とかも怪しいもんやし。
ホンでもっての起承転結の転(サビ)ともいえる、文四郎とふくの胸が締めつけられるような出会いと別れ。
物語はここで再び緩やかになる。
どろどろ男女の仲も時には善きドラマを作るけど、今作品の男女の決して結ばれぬ、ある意味悩ましげな愛の展開は、高鮮度の自然の中で、まるでその一部であるかのように語られてました。
そこでは、私利私欲が蠢く藩の争い事もまるで、自然の中の空気の様であるかのようでし、山田洋次監督の藤沢作品三部作と比べたら、個人的には劣るとは思うものの、原作に惚れたと云う監督の真摯な気持ちが良く伝わる作品でした。
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