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暖簾のsayuriasamaのレビュー・感想・評価

暖簾(1958年製作の映画)
4.6
山崎豊子の原点ぎっしり、大阪商いの情念

山崎豊子というと華麗なる一族をはじめ白い巨塔など、なんとなく関西のええとこの一族の企業もの名手みたいなイメージなのですが、この『暖簾』こそ、彼女の小説家デビュー作品なんですね。そして、この昆布商店、彼女の実家でして、映画内で息子・孝平が試行錯誤していた塩昆布(えびすめ)を発明したという…
映画観たあと、食卓に昆布製品が一気に増えました(笑)昆布食べたくなります。

話は淡路島から丁稚奉公に大阪船場に出てきた吾平、そして息子孝平の昆布に対する商いの情熱ストーリーです。
いや〜森繁久彌の父子・2役の重軽の対比、山田五十鈴の器、乙羽信子の可憐さ…素晴らしい名作ですね。
明治・大正と愚直に商いに挑み「暖簾」の重みで勝負する父吾平、戦後、これからは東京で付加価値勝負!デパートにも出店して手広く!という息子孝平。アプローチは違えど、商いに挑む姿勢は親子だなあと。ある意味、日本の歴史ですね。重々しく厳しく演じる老森繁、羽のように軽やかに演じる若森繁のキャラわけも抜群。器用な俳優だと再認識しました。
そして、役者陣の関西弁(というか船場言葉)も軽やかでキレイです。(おそらく)主要キャラはネイティブスピーカーキャスティングで流れるようなスピードに感服。

ラスト、本店の再興を成し遂げた孝平が、暖簾をくぐったところでふと考え込み、その後店の奥へ消えていく。外から吹き込む風に揺れる暖簾のカットで終わる、商家二代記の華々しい終わりにして、暖簾の役割もいつか変わっていくのだろうという予感。この演出が素晴らしい。


時間の流れが早いので、エピソードごとで時事的知識(〇〇が起きてるから何年あたり〜)が念頭にあるとより楽しめます。
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