Jeffrey

炎と女のJeffreyのレビュー・感想・評価

炎と女(1967年製作の映画)
3.8
‪「炎と女」‬
冒頭、瓏々とする夫婦のクローズアップ。二人が赤子に対し話す。裏の林、抱擁する男女をカメラが回転し、奥から第三者がそれを覗く。それは夢か、鷹士と名付けられた我が子。行方不明に、別荘、復讐…本作は吉田喜重が田村孟と山田正弘の三人で共同シナリオを執筆した人工受精に触れた心理ドラマで主演に岡田茉莉子を迎えた作品。物語は造船技師の伊吹真五と妻、立子の間にひとり息子の鷹士がいた。彼は人工授精で産まれた子供だ。ある日、鷹士が居なくなった。狼狽する夫婦、後に第三者の坂口の妻であるシナが鷹士を連れ去り戻った。そこから話は鷹士は自分の子だと騒ぎ始め、ラストまで展開する…本作は凄いよ。まず冒頭の霞む映像から徐々に夫婦の姿が浮きぼりにされるんだが、それは赤子が初めて父と母の姿を見る場面で、我々は直ぐに本作の主題が子供目線から両親は自分にとって何なのかを知る。いや〜これは面白い、産みの母と間接的にしか触れてない父、それとも育てる者…子供はどの様に見ているか、それを吉田喜重が描くのは興味深いし、非常に実験的な映像と従来のテーマと一貫もしていて、流石だなと畏れいる。しかも妻が嫌がる人工授精を勧めるのが夫ってのがいい。それは赤子の存在に執着しているのは女より男の方と言いたいかの如く…本作に登場する日傘はビニール傘になっている。造船所のロングショットや別の宇宙を見る捉え方にセンスを感じる。また鏡を使った吉田の演出が本作でも炸裂。サイレントになり風音を強調するお決まりの手法に音楽を全面に押し出した感覚、最高にサスペンスフルだ。またぶら下がり電気の傘で裸体を隠す頭上ショットや近未来的な建築物が印象的だ。夜鳥の飼育小屋の常闇感が怖く、全体的に黒を映えさせた画作り、照明を落とし、野外なら森林の横道に太陽光を集光したり、鳥の羽音を強調した男女の絡み、何回転もするカメラが捉える煙草を吸う男、肩車をする男、遠く窓越しに見守る女、そしてラストの車に乗り林を去り、子供に“言ってごらん、これはパパよ”の下りが人工授精が齎す闇の底を感じさ恐怖を覚える。正に神に挑戦した女と男の鮮烈な憎しみが観客に問い掛けるものとは…映画全体が索漠として物寂しい…。‪妻役の岡田はもちろんだが、夫役の木村功も素晴らしい父親像を演じていて良かった。親と子の関係の問題は吉田流に描いた秀作でお勧め。‬
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