継

夜になるまえにの継のレビュー・感想・評価

夜になるまえに(2000年製作の映画)
3.9
キューバの作家,レイナルド・アレナス(1943-90)の自叙伝「夜になるまえに」の映画化。
迫害から逃れた野外で書かれた為, 明るい日中にしか書き留められなかった事がタイトルの由来とか。

独裁者打倒を目指すゲリラ軍に参加したレイナルド(バルデム).
だがその誕生に加担したはずのカストロ・革命政権は彼ら同性愛者を反政府的と見なし, 次第に弾圧を強めていく….

空の青さとキビ畑の緑, 熱帯のまとわりつくような空気感と,
ねちっこく絡み合う視線, 妖しく官能的なハバナの夜が印象的.
凱旋するゲリラ軍の車列に熱狂した人々が群がる様子や,
若き日のカストロを撮らえた記録映像がキューバ革命の熱気を伝えてました。

ゴッホやバスキアの映画を撮り, 自身も絵を描く芸術家肌なシュナーベルですが, 今回は自叙伝を遺した作家の生涯。
それも性的な表現が迫害の対象となったホモセクシュアルな作家ですが,その「表現」は最小限?と言うかソフトな撮り方がされてました。

というかレイナルドを演じたのが個人的にはコーエン兄弟『ノーカントリー』の怪人シガーのイメージが強烈なバルデムなので, それっぽい歩き方とかニマッて笑顔をされてもコワくてコワくて((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
それだけに終盤の姿,表情とのコントラストは別人のようでもあり…バルデム, 好演でした。

パケ裏とかにも掲載されてたと思うので書いてしまうと, 亡命してNYで作家活動を始めるも病魔に犯されて…という生涯=悲劇的なストーリーなんですが,
海を渡ろうとして1度は失敗した,本来ならもっと劇的に撮りたかったんじゃ?と思う国外脱出が拍子抜けするくらい滑稽(^O^;)に叶ってしまったり,
獄中シーンだけに2役で登場するジョニー・デップがブッ飛んだ活躍を見せたりと, 予想外にユルかったりユーモラスだったりするシーンがあって。
ここら辺についてはネタバレを読まずに観るのをオススメします😊

👠

観ていて, レイナルドの半生は『蜘蛛女のキス』のレビューで書いたマヌエル・プイグと似ているなと。(デップの片方の役“ボンボン”は,この映画のウィリアム・ハートを思い出させます)
同じ南米出身(アルゼンチン)の作家で,ファン・ペロン(マドンナが演じた『エビータ』は彼の夫人でした)政権の元で政治亡命を余儀なくされ,母国を離れてAIDSを発症した不運…。

“環境が人をつくる”なんて言うけど, ハバナに比べて性も何もかも自由なハズのNYへやって来て, でも何故かそれを謳歌出来ずに孤独に苛まれるレイナルド。
自由ではあってもそれはビジネスライクな「契約」に過ぎず, レイナルドが求める血の通った「契り」ではなかったのかもしれません。

芸術家の創造性を刺激する環境って 抑圧をバネに真価を発揮するタイプもいたりするわけで,それこそ十人十色。
逆にというか, ヘミングウェイみたいに親米政権だったバチスタが革命に倒れた後もキューバに舞い戻ってガンガン作品を書いて“腐敗した民主主義を捨ててやって来た英雄”なんてキューバ国民に持て囃された作家もいて。

最期にパートナーが居たのは唯一の救いだけど,
命懸けで亡命して来たその晩年に, もう帰国が許されない祖国, とりわけ愛する母への郷愁を募らす姿は病魔のせいもあるけれど何とも痛々しいものでした。
継