猫脳髄

悪魔の赤ちゃんの猫脳髄のレビュー・感想・評価

悪魔の赤ちゃん(1973年製作の映画)
3.2
全編が警官隊vs赤ちゃんの追跡劇という珍品フリーク・ホラー。ロマン・ポランスキー以降の「ポスト・ローズマリー」と呼べる作品群に属するなかで、警察勢力との対決を映し出した点で異彩を放っている(※1)。

開始後すぐ、オギャーと産まれた直後から医療従事者を虐殺、逃亡した赤ちゃんを追う警察と、自分たちの子どもと認めたくない両親の葛藤を映し出すという実に単純な筋書きである。

ゆえに演出がキモになるが、肝心のクリーチャー・ベイビー(悪魔憑きではなく、薬害が原因であることがほのめかされる)が引っ込み思案で、なかなか姿を見せてくれない。常に引きの映像でボンヤリとその姿が確認できるだけである。襲撃シーンもほとんど間接的で、ゴア表現面での面白さもない。ただ、クライマックスの下水道での大立ち回りはクライム・サスペンスばりで、相手が赤ちゃんでも大真面目なのはよい(※2)。

最もユニークなのは、主演で赤ちゃんの父親役のジョン・P・ライアンがひとりガチンコのメソッド演技を見せている点で、その抑制的でリアリズムを追求するたっぷりした演技は場違いなほどである。トビー・フーパ―「悪魔のいけにえ2」(1986)のデニス・ホッパーを彷彿とさせ、完全に赤ちゃんを喰ってしまっている。

※1 ホラーにおける「警察力」という装置の導入タイミングは本当に難しい。初期に入れてしまうとどうしても「間抜け」に描写せざるを得ないし、引っ張れば引っ張るほど、ご都合主義に陥るきらいがある。この点で「うまい」と思わせる作品は少ない。
※2 下水道でパトランプに照られる警官たちの群像に、同じく息を潜める赤ちゃんを何度もインサートするのがマジである。
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