アニマル泉

春婦傳/春婦伝のアニマル泉のレビュー・感想・評価

春婦傳/春婦伝(1965年製作の映画)
4.5
鈴木清順が田村泰次郎の原作を2度目の映画化。1度目は谷口千吉の「暁の脱走」。清順のインタビューによれば調布の日活スタジオの近郊にオープンセットを建てて撮影された。
清順は「高低差」だ。白日夢の場面、春美(野川由美子)と成田中尉(玉川伊佐男)が情交している部屋へ真吉(川地民夫)が刀を抜いて駆け上がってくる「階段」、藁小屋で春美と情交したあとに二階の成田中尉を覗く真吉が昇る「梯子」、塹壕に寝そべる春美と真吉、その真上を飛ぶ八路軍、そして春美が手榴弾を盗む場面、棚の上の手榴弾ごしに忍び寄る春美の俯瞰ショット、ドンデンで兵隊が寝ているベッドに片足をかけて棚に大股開きで背伸びするローアングル、春美の足が兵隊の足に触れて起こさないか、エロスとサスペンスの高低差だ。真吉の処刑場面は斜面を真吉が転がり落ちて兵士が見下ろす上下関係になる。
高低差の垂直の運動に対して春美が荒野を彷徨う横の運動が素晴らしい。砂埃の中を徘徊する春美の全身の横トラックショット、さらに夜、砲撃が次々に炸裂する戦地を春美が真吉を探し回る狂乱の横トラックショットは異様に美しい。清順は「後ろで花火を上げただけ。あれしかやりようが無かった」と述べている。おそらくセットの背景がないのでスモークを張った日中撮影か夜間撮影しか出来なかったのだろう。その上での花火なのだろう。
冒頭の関東軍と八路軍の戦いは馬の疾走、砲弾の破裂が素晴らしい。本作は爆発で始まって爆発で終わる映画だ。ラストの自爆と煙は凄まじい。
清順は本作の節目でスローモーションやスチールショットを使っている。春美と真吉の娼館での出会いの場面、スローモーションと春美の絶叫のズレ、ラストの自爆場面のスチールショットだ。
本作はフレームショットも多用している。窓枠ごしのショット、門扉ごしのショットだ。画面が重層化する。
清順のジャンプカットは十八番、さらに物語を飛ばす物語ジャンプも本作で模索されている。
音楽は山本直純。白黒シネスコ。
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