しの田

善き人のためのソナタのしの田のレビュー・感想・評価

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
2.0
 崇高な理想を胸にした主人公はしかし、「人間的」な生活を監視するもそこへ立ち入ることはできない。全く異なる立場の二人の人生が芸術の力によって引き寄せられ、絡み合うも、相互の関わりはついぞ無かった。
 主人公はエリートだけれど嘘をついたり誤魔化すのが下手ですごくハラハラする。音楽を本当に聞く人は悪いことができない、北風よりも太陽、彼は善人なのだと思う。一度だけのお目溢しのはずだったのに、嘘に嘘を重ねなくてはならなくなり、監視対象である反体制派と運命共同体となっていく。しかも、一方的で報われることのない協力。
 終盤にぽんぽん時間が飛んだのが繋がりが悪くて気になる。実話ベースの話なのか?
 体制転換の後、自分の調査資料を請求できたということが面白いと思った。几帳面に資料が残り整理され、それほど長く時間が経っていないのに公開されている。誠実だし凄い。自身の過去を、監視対象としての詳細な記述によって再現させるというのはどんな気持ちだろう。未だ生々しい記憶に誰かの息がかかる。
しの田

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