むぅ

恋のゆくえ ファビュラス・ベイカー・ボーイズのむぅのレビュー・感想・評価

3.9
「こんなはずじゃなかった」

そう口にする恋。
若い頃はそれは恋の終わり、大人になると恋の始まりで呟く言葉のように思う。

職場で好きな果物の話になった。
「皮むくのがめんどくさい」
「そういうとこだぞ」
ものぐさなので、その手間が面倒であんまり果物を食べない私が言うと、そう返ってきた。
フォローさせてもらっている何人かがクリップするのがTLに流れてきたので気になって観てみた今作。
観ながら果物の事を考えた。
恋と果物はよく結び付けられる。
"恋の果実"よく聞く。
イチゴやサクランボ、鮮やかな色合いでひょいっと口に放り込める果物が"若い恋"。
ザクロやブドウ、その手間の後に甘さがある果物が"大人の恋"。
そんな風に思った。

口にするまで、いちいち皮を剥かなくてはならないブドウのような恋の物語。
味わった後に口に残る種。その種のまわりこそ甘いけれども、食べる前からわかる、ちょっとした煩わしさ。

風采の上がらないジャズピアニストの兄弟コンビが起死回生にと雇ったヴォーカリスト、スージー。
彼女の人気でトリオは一躍脚光を浴びるが、やがて彼らはそれぞれに苦い経験をすることに。

3人の想いとピアノの音色と歌声。
それをタバコの煙がうっすら覆う。
果物を想像したのは、甘美なラブシーンから。かぶりつくのでも、口に放り込むのでもなく、丁寧にゆっくりと果物の皮を剥くような手が良い。その後、彼がピアノを弾くときにこの描写を思い出して指先に目がいく。色気が香り立つ。
ドアをバタンと閉め、キスしながら廊下をぐるぐる暴れるラブシーンで真顔になってしまうので、こちらの方が圧倒的に好みだ。
何かを褒める時に、敢えて他を下げて褒めることはしたくない。
けれども、今回はそれをしてしまうと『黄昏流星群』というドラマでの佐々木蔵之介のキスシーンを思い出してしまった。
「掃除機かよ」
そう突っ込みたくなるほどに、相手の顔に吸いつく佐々木蔵之介を観て、仕事シーンの方がよっぽど色気があるのは何故!と思った。
佐々木蔵之介、大好きだが彼のラブシーンはもう遠慮したい。
皮を剥かずに何粒も口に放り込み種まで飲んだブドウ感。
(ごめんなさい)

熟れた果実が落ちるように、恋に"堕ちる"瞬間を描いたバルコニーのシーンも良かった。
しかも突然ポトンといくのではなく、枝がしなり果実がゆっくり揺れる様も描かれているので、その微かな音に耳を澄ませてしまう。

まだ何粒かしか味わっていない一房のブドウを思わせるラストシーン。この先どうなるのか。
皮を剥くのが手間、でも美味しい、一度口にすると次々と手を伸ばしたくなるブドウ。
そんな事を思った。
むぅ

むぅ